第十三話 相手が思い浮かべる地図の枠外を突け
「さてと、私たちは後発ね。
「御随意に……」
歴戦の騎士でもある老執事は
彼女自身の言葉にあったように、金髪紅瞳の吸血姫エルザ・クライベルの本領が発揮されるのは学問分野であり、荒事には向いていない
「まぁ、物事に絶対など在りはしませんが、恐らく
「ありがとう、レイノルド。でもね、彼は盤上の駒ではありませんよ?」
武骨なれども忠義の厚い古参を諫めた後、吸血姫は先発した二名の部隊が潜伏地に着くまでの調整時間を緩りと過ごして、一夜明けた翌日の早朝に進軍を再開させる。
それから二刻ほど経った頃…… 占領下にある北西領の
森林地帯を抜けてきたのか、街道の数キロ先に出現した “予期せぬ軍勢” をベルクス駐留軍の守備兵が捕捉し、塔内にいた伝令役の人員を兵卒らが
やがて約四千名の将兵を
「困ったな、前線から下がってくる部隊の話など聞いてない」
「
「遠目ではありますが、中規模な連隊相当…
「
「妥当だが、城にいても初動が遅れる。我らも都市防壁まで出向くぞ」
まだ年若くとも堅実な次期当主の発言を受けて、その御守りを頼まれていた白髪の老騎士は静かに頷き、いつもは硬く結んでいる口元を綻ばせた。
(父君とは違い、政務の才だけでは無いやもしれんな……)
ならば比較的に危険度が低そうな戦闘で経験を積むのも良かろうと、将来性のある若者に続いて執務室を去り、南門の防御を固めながら正体不明の軍勢に備える。
十中八九、脅威となるであろう存在が都市まで近付くと、“遠見の魔法” を双眼に宿した御付きの女魔導士がリヴェルの耳元で囁き、それが屍鬼や魔人で構成されている事実を伝えた。
「…… クレイド、北西領軍の残党どもは人狼公と合流して、前線にいるのでは?」
「手際よく、うちの主力を出し抜いたんでしょう」
されども、個々の技量に
どういう意図に基づく行動なのかと、考えあぐねている間に
(あの数で都市を奪還する事は難しい。伏兵は…
思索に意識を割いていた貴族の嫡男が結論に至るのと、魔族の軍勢が迂回行動を取り、素通りする形で北東側へ向かい始めたのは
「ッ、あいつらベルクス本国を狙うつもりか!?」
「国境沿いの都市ラズベルは手薄で、各地からの支援物資も集まってますからな」
「どうしますか、軍団長殿ッ」
「このままだと見送る失態を犯してしまいます!」
動揺し始めた兵卒達を
それは控えていた副官を務める老騎士クレイドも同様であり、やや
「なるほど、私達を釣り出す計略でもあると……」
「あぁ、しかも無視すれば本国に被害が出る。
不愉快そうに言い捨てたリヴァルは伝令兵の一人に指示を与え、事態の推移に合わせて中央広場に集めていた手勢のうち、騎兵の一個中隊及び軽装歩兵の三個中隊を北門から出撃させる。
彼らが先行して、付かず離れず軍勢の警戒心を
「笑ってくれて良いぞ、ありきたりな数に任せた力押しだ、情けない」
「いえ、残す守備兵が僅かなあたり、思い切りの良さを感じます」
「相手は戦力の分散も計算に入れているだろう? せめてもの嫌がらせだよ」
「ははッ、それが結果的に味方の被害を減らすのなら、大いに結構!」
破顔して豪快に笑い飛ばした白髪の老騎士を従え、貴族家の嫡男は兵卒らの指揮を執るために広場へ向かう。
その途上、帯同させていた他の伝令兵らに “本隊の帰投まで決して開くな” と言付け、去り際に命じた南門以外の防御を固めさせるのも忘れない。
魔族の残党と一戦交え、蹴散らすまでの短い間に防壁が破られる可能性は低いとした判断の下、先発隊に続いて駐留軍の本隊も北門から発った。
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人物紹介 No.9
氏名:リヴェル・アルニム
種族:人間
兵種:
技能:身体強化(小)
槍術・剣術・馬術
兵站構築
部隊指揮
初級魔法(水)
称号:旅団長
武器:馬上槍(主)
片手剣(補)
武装:軽硬化錬金鎧
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