第三話 戦争の根底にあるもの
なお、ひと足先に
「うぅ、落ち着きません」
「背に腹は代えられない、市街地を抜けるまで我慢しろ」
借りてきた猫のように腕の中で縮まる吸血姫を
現在、ディガル部族国の首都イグニッツは占領下にあるため、まったくと言っていいほど兵卒以外の人影が見当たらず、まだ日は高いのにどこも閑散としている。
「…… 高所から見下ろすと、戦争の
「そうだな、まったく
「ッ、貴方のような傭兵が… いえ、助けられた身
小さく呟いた吸血姫は押し黙り、素直に肢体を
そのままベルクス王国軍の野営地がある北門とは逆の南門へ
さらに留まること無く、足元より噴かせた風と共に跳ねて、転落防止も兼ねた
内壁より一段低い外壁の歩廊に着地した後、同じ動作を繰り返して地面に降り立ち、両腕で横抱きにしていた人外の姫君を自分の足で立たせた。
「ん… ありがとう御座います」
「御礼はいらない、すぐに
短い会話の合間に
「断じて私の趣味ではありません、誤解なさらないでくださいね?」
「分かっているさ、お
恥じらい含みの念押しに頷いてから、首都近郊の穀倉地帯を二人で走ること
こちらの読み通り、相手方の軍勢は都市封鎖と内部探索を優先したようだが、防御塔から平地を見渡せるにも
(即応可能な少数の騎兵すら
一戦交える覚悟が無駄になれども感謝を捧げ、浅い呼吸が徐々に落ち着いてきた同伴者と向き合う。
「“吸血姫の学士” エルザ・クライベルで間違いないか?」
「…… 年若い小娘のような容姿でも長く生きてますから、相応の知識はありますけど、学士を名乗るほどではありません。“護り手” の一人、風使いのクラウド殿」
どうやら、こちらの素性を知っていたようで、迷いなく呟かれた二つ名を聞き、思わず自虐的な笑みを浮かべてしまう。
懇願されたとは言え、聖女の心臓に刃を突き立てたのは自身であり、護り手を名乗るなど
「少し前にベルクス王国から追放されてな、野良の傭兵に過ぎない」
「色々と疑問はありますが… 私に御用でも?」
「単刀直入に言う、知恵を貸してくれ。種族の差によらず、手を取り合える明日が見たい。もう殺し殺されには飽きたし、悲劇も食傷気味だ」
挑むように視線を合わせて、
「争いの連鎖を止める? 不可能よ。私達が持つ精神的欲求には “際限” が無く、それを満たすための物資は “有限” だから、奪い合いが生じるのは道理ね」
「それが戦争の根底にある原因なのか?」
「えぇ、苦労して対価を得るよりも奪った方が早いわ、特に飢饉などの時はね。抵抗されたら、さくっと殺せばいいの」
皮肉を述べた彼女は “戦場に立たない権力者の無責任な欲望”、“不安定な情勢下で大切な誰かを失うことの
その中で彼女が
「…… できない理由など幾らでも並べられるが、等しく無価値だ。求める理想が遠いほど、立ち止まっている暇はない。それだけの見識があって
「勝手な言い草ね、浅慮な下郎。戦時に必要なのは知識よりも武力、
熱量を含んでいた声が
「非破壊の術式を刻んだミスリル製の魔封環、最初に気付くべきだったか」
確かに浅慮だと呆れながらも身を寄せて、拘束具に備えられた鍵穴を覗き、腰元の小袋から特殊なウォード鍵の束を取り出す。
小さな錠前の構造は基本的に単純なため、鍵穴の内部に設けられた同心円状のプレートを避け、
「貴方って、本当に傭兵なの?」
「昔、盗賊あがりの仲間から、金貨一枚で譲って貰った。それよりも……」
唖然としている彼女を巻き込むため、半月足らず前までベルクス側に
王国側の遠征計画では、時間が掛かろうとも着実な進軍で敵首都を陥落させた上、指揮系統が乱れた軍勢を種族単位で撃破する
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人物紹介 No.3
氏名:エルザ・クライベル
種族:吸血鬼
職業:
技能:中級魔法(闇)
血武器錬成
錬金術全般
飛翔(短時間)
称号:吸血姫の学士
武器:素手
武装:煽情的な半裸の衣装 & 魔封じの首輪
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