第13話 秘密のキスが意味するものとは何か

『笠原優さん...えっと確か前に進路相談した事あったよね』

戸惑いながらも、先生は井杉くんに問いかけた。

彼は嬉しそうな顔をして話した。

『先生のおかげで、私変われたんです。先生が周りを気にせず自分の道を進みなさいと言われた事が今でも心に残っています。先生のおかげで一歩踏み出せました。先生、ありがとうございます。それが言いたくて先生に今日会えて嬉しかったです。もしよかったら、先生にお恥ずかしいですが、私の写真集とプレゼントに手紙どうぞ。写真集は要らなかったら捨ててくれて結構ですから』

先生はポカンと情報量が多くて、固まっていた。そんな先生に店長は言った。

『すみません、最後までこんな驚きの連続になってしまって。でも、井杉は先生にずっと言いたかった事だったんです。先生に想いを伝えたかった。それだけは受け取ってください』

そんな店長の言葉に先生は言葉を汲み取るように話した。

『井杉くん、いや笠原優さん...ここで会えたのも特別な縁だと思うから、個人的にまた会いたいから連絡先交換しませんか?』

井杉くんはそこで初めて女の子になった気がした。

彼は彼女になり先生と連絡先を交換したのだった。

時間は午後10時半過ぎになり、店長は先生に言った。

『お姫様はそろそろ家に帰る時間じゃないかな。井杉、そこまで送っていってやれよ』

そう言われて、井杉くんは駅まで先生と歩いていた。

先生との距離は2センチぐらい離れていた。

手を繋ぐでも、肩を抱き寄せる訳でもない。

男装だからと男になろうとはしない。

ただ側で先生と無言でいるのは少し気まずいかもしれないが、先生にとってはそれが居心地が良かった。

駅に着いて、先生は少し酔っていたのもあって足取りは危なかった。

そんな先生の肩を支えたら、先生はつま先立ちして井杉くんの頬に先生のキスがクリーンヒットした。

先生は少し酔いながら笑って言った。

『井杉くんは井杉くんだよ。最後まで私の推しであり元教え子。大大大好きな存在です。また連絡するね。それまで大きく成長してろよ。私の推しよ』

井杉くんにはよく分からなかったが、先生は相変わらず元気で頼もしい先生だと思った。

このキスは秘密誰にも言えない秘密の出来事として取っといた。

井杉くんはロイドに帰ってから、店長からは花束を怜樹からはお菓子を柳からは手紙を貰った。最後は沢山泣いて沢山笑った。

次の日は起きたら目はたんこぶみたいになっていて、鏡を見ながら昨日に戻りたいとすら思った。


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