十六夜月
観測か行動か
赤い月夜が過ぎ去った。自分には特に異常はない。予想通り覚醒は起きなかった。そうデータを書き席を立つ。出航から16日目の朝。一応己の月が出る日だが、それに対する”何か”もなく、普通の状態だった。それでよかった。
いつも通り、髪を結って、眼鏡をかけて、談話室へ向かう。今日は誰か死んだのだろうか。それとも特に異常はないのだろうか。まぁ、いい。自分が動けられればなんでもいい。自分の”仕事”だけはこなさなくては。使命こそが自分の命である。
だが途中でエンジンルームからエラー音が聞こえてきた。あそこが壊れたらこの船も死ぬ。そんなことになってはならないので朝礼に出ずエンジンルームに向かった。 まぁ、この船でエラーなんて起こるわけがないのだが。
近くにいた船員にエラーを確認しに行くと伝えると自分のほかにとある二人が付いてきた。人間でいえば、仲間、と呼ばれるものになる二人だ。同じ人の手によって生まれた、少し複雑な関係。家族ではないけれど、ずっとおままごとをしてきた関係。自分たちの使命はそれぞれの視点からの船員の監視をすること。それぞれ違う国に属しているが監視さえしていれば他国の意思に従っていようがどうでもよかった。
オイル臭いエンジンルームに集まった三人。自分以外の二人は覚醒月の影響をうけ、どこかいつもと違う姿になっていた。
「覚醒、おめでとう。」
そういうと、”アルファ”は複雑そうな顔をした。
「成長痛みたいなのが来ててすごく痛い。」
そういうと”ガンマ”は笑った。
「船長に、新しい制服くださーいって言いに行ったら、真っ先にあんた、誰?って言われてたから笑っちゃったよ。」
二人の変化は二人が望んだ力に近いのかもしれない。いろいろ文句は言っているが、結構嬉しそうだった。
「父さんが言ってたみたいに、覚醒月の影響でアルファは急成長したみたいだ。」
アルファは頬を軽く搔きながら、
「うん、成長というか、なんというか…。止まっていた時が動き出したみたいなんだ。曖昧になっていた記憶とかが少しずつ埋まってきている感覚。」
と苦笑いした。もしかしたら思い出したくない記憶があるのかも知れない。気にかけておこう。
「二人の情報を預かるよ。」
そういうと二人はそれぞれの情報媒体を差し出してくれた。それを受け取って確認するとガンマは口を開いた。
「今のところザハール側はベータのことを壊すつもりはないみたいだよ」
するとアルファは少しむっとして
「サイールも特に手を出す予定はないよ。そもそも僕たちがそういうことにならないように阻止してきたじゃないか。」
と返した。二人は少し睨みあい、すぐにため息をついた。
「御国思考になってた。ごめん。」
「仕方ないよ、それぞれ国の英才教育を受けてきたんだから。」
自分たちは一応同じ海鳥候補生として訓練を受けてはいるが、それぞれザハール側の政府、サイール側の政府に”教育”を受けてきているため思想が少し違っているようだった。
「それぞれもう、動き出すみたいだね。アルファもガンマも作戦では誰にも手をかけないようだけど、何があるかわからない。父さんのためにも手だけは汚さないよう気を付けてね。」
そういうと二人は大きくうなずいた。
自分はどこにも属さない。ただ流れゆく事象を観測するのみ。それなのに二人はどんどん先へ進もうと行動する。身内と対立しているのにもかかわらず、自分に嘘をついて行動する。
あぁ、父よ。本当にこれでいいのでしょうか。
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