友達と家族

 この船には血がつながった兄弟や幼馴染のものなど、比較的人とのつながりが明白である。ここまで知り合い同士がこの船に集まるのは珍しいが、そのおかげで最初から信頼関係が築けていた。だから僕はこの船の上ではみんな平等だと思っていた。


 今日の天気は曇りだ。じめじめとして、空気が痛い。こんな日はのんびり部屋の中で温かいものをいただきたい。できれば毛布にくるまってしまいたい。そんな思いを抱えているのに、僕はずっと空の観察をしなくてはならない。きっとベータが天候を読んだ方がずっと正確ではあるが、あいつにはもっと重要な海鳥の心臓部を管理する仕事がある。だから僕がやらなくてはならない。

 このままこの分厚い雲で月の形が見えなくなれば僕らは今と同じように日常を過ごすことができる。そうすれば敵とか味方とか考えずに同じご飯を食べて同じ風呂に入ることができる。僕はそれをどうしても望んでしまう。だってこの日常が好きになってしまったから。


 僕が考えられる範囲で船員たちについてまとめると大きく分けて二つの志を持った者がいると思う。さらに細かく分ければもっと複雑な話になりそうではある。そう思うきっかけは昨日のジャックの話だ。ジャックの話は確定した内容は無かったが、それでも仲間を完全に信じていない点からこの船に裏切りものがいる、もしくは裏切るものがいることを知っているのではないか。

 海鳥候補生時代に僕らは様々な訓練をやってきたが、船長とジャック、それからクラブは僕が候補生になるずっと前から訓練されてきた。その時に本当は海鳥の謎についての教養があったのかもしれない。もしもその通りだったらなぜ僕らに何も言わずにそのままでいるのか、という謎が出てくる。もしかしたら僕も疑われているのかもしれない。

 だが僕には残念ながら海鳥を裏切る理由はない。かといって国に対して依存するほど固執もしていない。なぜなら僕に記憶がないからだ。最後に残っている記憶は大泣きする女の子の声と、怒った男の悲痛な叫び声だけ。その前の記憶はどうしても思い出せないままでいた。

 だからもし、覚醒月を経てその衝撃で記憶が戻って、国に対してとんでもない憎悪を抱えていたとしても僕はそれでもみんなと協力して帰りたいとおもう。それくらいみんなを信じているから。


 いろいろな思いを抱えていると海鳥を探検している美海に声をかけられた。最初のころは何とも思っていなかったけど、今となってはこの無知で無垢な存在のまま過ごしている彼女が心底羨ましく思えた。

「美海はさ、」

この船に本当の味方が何人いると思う?と聞きそうになりぐっとこらえて

「この船は好き?」

と、聞いた。美海はきょとんとした顔で好きですよ、といった。

「そう。」

その言葉に何とも言えない安心感と不思議な嫉妬心を抱えた。

「能天気そうで、うらやましいよ。」

そういうと美海はむすっとした顔をしてそんなことないと言ってきた。

「僕よりも年上のくせに、あほっぽいし、馬鹿っぽいし。何も考えてなさそうじゃないか。」

美海は少しうろたえてぶつぶつ言いながら目をそらした。

「でも、そういうところを見ると少し安心するよ。この船には君みたいな普通な子はいないから、まるで国にいるような気分になるんだ。」

拗ねかけていた美海は一転して嬉しそうにし始めた。嘘が付けないタイプなのだろう。

「…。いろんな人に騙されないようにね。」

そう伝えて僕はこの場を去った。


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