双子と夜

 すべて本当のことを話したわけではないが、それでも部分的に月華人と月華の力についてを普通の人間である美海に伝えてしまったこの夜。上弦の月がきれいに見えていた。失敗してしまったことに対するもやもやと、自分を初めて人間が受け入れてくれたことに対する喜びが一緒にやってきては頭を揺さぶり気を紛らわせる。船長や副船長にすら気にするな、といわれていたもののそれでも引きずってしまうのは国にいた時からの癖だ。

 僕ら兄弟はそれなりの地位を持った家系に生まれ、学術武術共に幼少のころから鍛えられていた。それなのに僕の体はその厳しい鍛錬についていけるほど丈夫ではなかった。重い剣を持てない両腕、1㎞すら走り切れない両脚。ひと月に一度風邪を引く弱い体。気が付けば家の者たちはすべての武術教育をブラックに捧げるようになっていった。それでも僕は気にしなかった。だって僕は頭がよかったから。同級生にはもちろん、上級生とも比較にならないほど頭だけはよかったから、僕は頭脳に磨きをかけた。どんどん頭がよくなれば家の者たちも自分に興味を持ってくれるようになり、僕の承認欲求が満たされるのだから。

 それでも、自分が一番興味を持ってもらいたかった母親には何も反応をもらえなかった。100点満点のテストを見せても僕の顔を見れば嫌そうな顔をして速足で逃げていった。そういう人だった。

 僕の顔が特別醜いわけではない。母親が一番嫌がったのは瞳の色と髪の色だった。医者が言うにはアルビノ、と呼ばれる古代から存在する病気らしく、この家系では生まれるはずのない白髪と薄紫色の瞳を持っていた。でも、それだけだったらまだよかったのかもしれない。5歳を過ぎたころから左目が後天性のオッドアイになってしまった。そのせいでより一層母親に嫌われてしまった。薄紫色の右目と月の光を吸収したような金色の左目。僕は自分が嫌でたまらなくなった。家の者たちはこの変化は素晴らしいものだと言ってくれたがそれでも僕にとっては犯罪をしてしまったものに掘られる刺青が付けられてしまったような気持ちでいっぱいだった。今でもそんな気持ちでいっぱいなのだから。


「ホワイト、何してるの」

ブラックの声に我に返った。部屋についているバルコニーで月を見ているうちに日が変わっていたらしい。

「そろそろ寝なよ。今日は疲れただろ?」

そう言ってブラックが片手に持っていたホットミルクティーを差し出す。受け取って匂いを嗅ぐとほんの少しメープルシロップの香りがした。

「ねぇ、ブラック。」

肌寒い海上の夜。ブラックの目と自分の目がまっすぐに合う。ブラックはほんのり笑みを浮かべながら僕にやさしい声で

「うん、そうだね。俺も、結構ほしいかも。」

と、言ってくれる。さすが双子だなと、思ってしまう。だって僕らの思いはずっと同じだし、僕らの使命もずっと同じなのだから。

「いつかな、次の赤い月。早く覚醒したいな。」

「そうだね。みーんなきっと受け入れてくれるよ、あの子なら。」

僕らが赤い月を迎えたら、最強の月華の力が手に入る。そうすれば僕らは僕らの使命のために動き出すことができる。

 すべてはザハール王国のために。

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