最年少と無感情

 黒白兄弟が文句を言っているのを横目で見ながら美海を船内に案内しているとレクリエーション室に頬を膨らました少年とそれを冷たい目で見ている青年を発見した。これはかなり珍しいことだなと思い、つい、レクリエーション室に入ってしまった。

「皐月とベータがこの部屋を使うなんて珍しいね。ダーツでもしてたの?」

そう話しかけると皐月が聞いてよといわんばかりにため息をつきながらこちらを見てきた。

「ここにあるビリヤードとかダーツとか、テーブルテニスとかも全部やったんだけど全敗した。」

そう言いながら悔しそうにしている皐月。こう見ると12歳らしいなと思う。

 彼は最年少でこの船に乗ることになった秀才児で気象学についてたけていることから海鳥の気象予報士としての役割を担っている。

「皐月ちゃん負けちゃったの?そんなにベータ強かったの?」

そうブラックが聞くと皐月はむっとして

「僕を笑うなら一回ベータと戦ってみてよ。そうすればわかるから。」

と言って手に持っているダーツを渡した。するとブラックは笑いながら受け取りベータに挑み始めた。

「俺一応片目隠れてるけど結構見えるからね。手加減しないでよ?」

そう言いながら投げたダーツはブル、ダブルブル、20のトリプルに綺麗に刺さった。合計135点だ。

 さて、次はベータの番だ。ベータは表情筋を一切動かさずに綺麗な姿勢でダーツを投げた。するとダーツは綺麗な線を描いて全て見事に20のトリプルに刺さり、一発目から合計180点という数字をたたき出した。

 今回の試合はカウントアップだったが、たぶん違うルールでも同じ結果だったと思う。ベータはずっと20のトリプルを取り続け、それによってブラックのメンタルはかなり疲弊していた。

「皐月ちゃん。これは堪えるね。俺もう泣きそうだよ。」

そう言ってブラック皐月に泣きつくと、いつもはつんけんしているのによしよしと皐月は慰め始めた。

 ベータは本物の天才である。一度見せたものを一瞬で暗記できるし、やったことがないものでも経験と理論からすぐに実践することができる、というとんでもないやつだ。海鳥船員の中で顔の造形がもっとも整っていることから国の人間にも人気が高かった。そんな彼はエンジンルームの管理のほか船内機器のメンテナンス、修理、制作を行う役割を担っている。

「手加減するなといわれたので、つい、やりすぎちゃいました。」

そう綺麗な声でブラックたちにベータが言うと、二人は頬を膨らませて

『国に帰るまでに絶対一勝はする。』

と声をそろえて話した。


 新たな友情が芽生える裏で美海とホワイトが楽しそうにテーブルテニスのラリーを繰り広げていた。このゲームに使用するボールは打つたびに大きな音が鳴るが、心地よいテンポを維持していたため聞こえなくなっていたようだった。

「二人とも上手だね。いつからやってたの?」

二人に聞くとホワイトたちは楽しそうに答えてくれた。

「ダーツ始まったくらいからだよ」

ダーツの時間は15分くらいだっただろうか。その間ずっとラリーをしていたのかと大分驚いた。美海はちゃんと運動神経を持っているのだということがわかり常々安心した。





 気が付けばもう日が暮れていた。今日の月は三日月だ。この月が満ちたら我々は動き出さなくてはならない。この船の上で我々の味方は誰なんだろうか。そんなこと、まだ考えなくていいか。初日くらい、何も考えず、みな平等に。

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