黒と白
デッキのほうに美海を案内していると、ため息をつきながらそこまで汚れていない床をブラシで磨いている黒白兄弟がいた。白黒、といった方が語感的に安心感があるのだが、黒白の黒のほうがそれを許さなかった。曰く兄としての尊厳に関わるとか。
「君たち、今日くらい掃除しなくていいよ。こんなにピカピカにされているんだから。」
そう声をかける黒白兄弟はやれやれ、といった感じで話してきた。
「いやぁ、クラブさんはわかってないなぁ。何もしない、ということがどれだけ苦痛か知らないんだろー」
「仕方ないだろ?クラブは優秀なんだから船長たちにこき使われてって、あ、美海ちゃんじゃん。何してんの?」
ゆるゆるな白とだらだらな黒と美海は目測では同年代っぽい、と勝手に思っているが精神年齢的には美海のほうが上だな、なんて思っている。
「ははーん、クラブにナンパされたか。可哀想に。」
「ナンパなんてしてないよ。全く、昔から君たちは…」
彼らのペースに飲まれるとややめんどくさい。が、美海的には面白かったらしく二人のペースに合わせているようだった。
「改めて美海ちゃん。俺はブラック=アンダー。こいつの兄でトラップの弟。よろしくね。」
「僕はホワイト=アンダー。これとトラップの弟。仲良くしてね。」
黒白とトラップはいわゆる腹違いの兄弟で、一見身内には見えないが”力”の部分においては確実にトラップ家のものが受け継がれている。
美海は二人に挟まれ船内の仕事について教わっているようだが、あまり危ないことはさせたくないので程よく切り上げたい。が、そんなこと黒白にはお見通しのようだ。
「僕らも美海と仲良くしたいなー」
「俺らも仲間に入れてほしいなー」
と両脇から黒白兄弟に挟まれてしまった。こうなっては梃でも”力”でも何でも聞かないのは学生のころから知っている。
二人を仲間にしてまた海鳥の散策を始めることにした。
黒白が腹が減ったとうるさいのでラーズに何か作ってもらおうと調理室に向かうと丁度良く黒白の兄、トラップに出くわした。
「ん、お前ら何してるんだ?まだ夕飯まで時間があるが…?」
トラップは弱視であるが”力”ではない何かで我々の存在を確実に把握しているようだ。
「腹が減ったのか?生憎だがラーズはいないぞ。そして俺はこの先の門番を仰せつかった。くくく…、かわいい弟達でもこの先は通さないぞ~」
そういうと通せんぼの体制になった。
見た目は小さい子に百発百中泣かれるくらい治安が悪いが中身はただの気のいいお兄さんだ。だからこそ美海の第一発見者になってもらいたかったのだが、残念ながら貧血で倒れた状態で運ばれてしまった。あの大馬鹿変態野郎のせいで。
「ん、美海もいるのか。調子はどうだ?ゼロにいじめられてないか?」
ゼロは現在副船長ジャックのもとで監視、かつ熱い指導をされている。だから美海に被害が及ぶことは無いだろう。が、万が一のことがあるので一応美海の反応を待った。すると美海は船に乗ってから一度もあっていないと言ってくれた。
「あいつお前の血めっちゃ気にってたから気を付けろよ。」
そういうとトラップは美海に小さな飴を渡し、調理室の扉を閉めた。黒白兄弟はぶつぶつ扉に文句をつけていたが、トラップは優秀な門番なようだ。それから一切開ける気配も耳を傾ける気配もなかった。
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