第43話 幼馴染は教室を巻込む

※この話だけカレン視点です。


 計画は完璧なはずだった。

 オタク事務所へ乗り込んで、ちゃんと姫川の自信を打ち砕いてやったんだ。

 あの女、かなりのダメージを受けてた。

 ざまぁ見ろだわ!

 復讐の計画は、途中まで上手くいってたんだ。


 でも最後には、無様にも警備員たちに追い出されるハメになった。

 それもこれも、全部たちばなあかりのせいだ。

 あいつが役立たずのゴミだから、私の完璧な計画が崩れたのよ!


 数日間、私は眠れないほど悔しい夜を過ごした。

 いつか姫川を追放してやる、健太へ近寄らせないようにしてやる、そればかり考えた。

 むかつくあのオタク事務所を調べてたら、あの3人が一緒に配信すると知った。


 情報収集のつもりでその配信を見終わって、健太に電話した。

 分かったことがあるからだ。

 だから健太に、面と向かって話をする時間をとらせるために。


「あ、健太ー? 私よ、カレン。電話とか久しぶりー。今、あんたの配信見てやったよー。それでさー、ちょっと話があるんだよね。Vtuberだっけ? うん、そう、そのことで。あ、断るとかいい根性してんねー。私ー、知ってんだよ? あのアニメキャラの正体が姫川だって。私次第じゃあいつ、学校来れなくなるかもよ? そうそう、最初からそう素直になればいいのよ! んじゃ明日ー」


 私は健太の配信を見てピンときた。

 やっと分かった。


 健太の本心は違う。

 別に姫川が好きな訳じゃないだ。

 栗原なんかに興味ないんだ。


 健太はただ、アニメキャラのゲーム配信に惹かれてるだけなんだと。


 なるほどね、と。


 そういえば健太は以前から、ああいうアニメキャラみたいのが好きだった。

 ゲームもメジャーじゃないのに熱中していた。

 ラノベとかいうキモイ表紙の小説を買って、嬉しそうに読んでた。

 健太はオタアニメが好きで、マイナーゲームが好きで、キモイ小説が好き。

 だから姫川とか栗原と一緒にいるんだ。

 そんなものに私が興味ないから、オタ友が欲しかっただけなんだ。


 だから、姫川を追放するだけじゃなくて、私も少しは健太の好きなオタク向けのアニメやゲームを理解してやるかと。

 ……嫌々だけど。


「ふーん。オタクの芸能事務所って結構たくさんあるんだねー」


 この私が敵を倒すだけじゃなく、健太に話を合わせてやるために、オタク会社まで調べることになるとは。

 まあこれも、健太を奪い返すためだ。

 盗られたものは絶対に取り返す。


 私は幼馴染みとして初めて、健太のキモイ趣味に合わせてやるかと、かなり寛大な気持ちになった。



 翌日、いつも通りに学校へ行った。

 でも健太と話すのはすぐじゃない。

 昼休みと決めている。


「おはよー、健太ー」

「おはよう、カレン。あの、話って何?」


「まあ、待ちなよー。ちゃんと話したいから昼休みにしたいんだー。だから今日は、姫川や栗原と屋上に行くの、やめなさいよ?」

「え、知ってたんだ……」


「フン、私をなめないで欲しーなー。とにかく幼馴染みとしてじっくり話がしたいからさー、昼休みに教室で話そうよー。いいよね?」

「昼休みにここでか? 一体何の話を?」


「この教室でよ! 内容は男女関係の話だしー!」


 ワザと大声で言ってやった。

 栗原に聞こえるように。

 クラスの奴らに全員に聞こえるように。


 ほら、やっぱりだ。

 栗原の奴、平気なふりして慌ててメッセージ打ってる。

 たぶん姫川へ連絡してんだわ。

 あはは、予想通りの行動で面白っ。

 クラスの奴らもざわついてるから、きっと私たち幼馴染みのやり取りに注目してるのね。

 狙い通り、昼休みは教室が満員御礼になりそう。

 たくさんのギャラリーもいるし、楽しみだわ。



 そのまま何ごともなく午前の授業が終わった。


 クズ教師の話を聞くのはいつも苦痛だけど、今日は昼休みが楽しみであっという間だったな。

 さあ、断罪イベントの開催よ。

 まず健太を私の近くに座らせるか。


「ねえ、あんた邪魔。どっか行ってくんない?」

「え、あ……うん」


 私は前の席の眼鏡陰キャ女をどかす。

 もちろん健太をこちら向きに座らせるためだ。

 健太は私の所まで来ると陰キャ女に声をかける。


「ごめんね、俺のせいで。なるべく早く終わらせるから。よかったら俺の席使って」

「ありがとう、中村さん! 私は平気だから。それより……頑張って!」


 あ、あいつ!

 今、私の健太に色目使いやがった!

 クソ!

 どいつもこいつも気に入らない!

 健太は子供の頃から私のものなんだよッ!

 幼馴染みが独占していいのは世間の常識。

 そんなことも言わないと分かんないのかしら。


 クラスの奴らは、ほとんどが教室で昼ごはんを食べるようだ。

 いつもなら半分は中庭とか部室とかよそで食べるのに、よっぽど私と健太の話を聞きたいらしい。

 近寄ってこないけど、みんなが聞き耳を立ててる。


 でもそんな奴らと違って、こっちに来る女子がふたりいた。

 由紀子とメグだ。


「カレンてば面白そうなこと始めるねー」

「幼馴染み同士のすれ違い? もしや今から修羅場とか? ちょっとこれは見逃せないしー」


 普段ならアホでバカなこのふたりから離れたい。

 一緒にいると私までバカに見えるから。

 だけど今なら大歓迎。

 こいつら、臆せずいい感じで場を煽るんだよね。

 バカとハサミは使いようとはよく言ったもんだ。

 でもこのバカたちに、話の流れは伝えてない。

 あの橘あかりみたいにヒヨられたら最悪だからだ。


 そうこうしていると、教室の引き戸が勢いよく開いた。


「健……中村さん! 美崎さんも栗原さんも教室にいるわね。あ、みなさん、すいません。友達とお昼食べたくて、ちょっとお邪魔しにきました」


 来たな姫川ッ!

 教室ひとつはさんで離れてるのに、わざわざ出しゃばってんじゃねーよ!

 ほら、ウチのクラスの連中、あんたの強引さにドン引きだよ?

 うふふふふ、でもね?

 待ってたのよ、私はあんたを!!

 これからおまえの弱みで健太を脅す。

 みんなの前で追い込んでやる!


 健太の口からおまえと距離を置くって言わせて、絶望を味合わせてあげるわよ!

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