57 お詫び
「よくも騙してくれたわね!」
花山さんが腕組みして和馬を見据えている。圧のある顔で。
「え? え? どういう事だっ?」
和馬は狼狽えているのか頻りにオレと花山さんを交互に見ている。聞かれたので答えた。
「そういう事だよ」
「お前っ! 助ける気ゼロだろっ!」
「そもそも自分で蒔いた種だろ? オレはお膳立てしただけだ」
「仕組んだなっ! 約束と違うじゃねーかっ!」
取り乱す親友を鼻で笑った。白けた目を向けてやる。
「おいおい。お前のした事に比べたら大した事じゃないよな。先にそっちがオレと柚佳の邪魔したんだろ? 身から出た錆ってやつじゃね? ま、これでチャラにしてやるよ」
「俺っ、俺……! さっき何か言ってたよな……? あんなの、愛の告白じゃん! うわっ恥ずっ! しかも今、こんな格好だしっ!」
いつも花山さんに「好きだよ」とか恥ずかしげもなく言いまくっている癖に、自身も知らない内に聞かれてるのにはうろたえるんだな。変な奴。
それはそうと。顔を手で覆っている姿は美少女なのに身悶える声がいつもの和馬で違和感が半端ない。まだ慣れない。
「私っ、私……信じちゃったじゃない! ラブレターの事! 沼田君は私の事好きなのかもって。大事な友達から好きな人を奪おうとしたのよ? 違うって分かってからも引くに引けなくなったし……。よくも私を悪の道に引き込んだわね! 私も十分悪の素質あったけどさ!」
「俺っ、美南ちゃんと一緒なら悪の道を進んでも天国だよ……あてっ」
アホな事を言っている和馬の頭を花山さんがはたいた。和馬の被っていた黒髪ロングかつらが少しズレた。
「沼田君」
花山さんがオレの方へ向き直った。
「本当にごめん。元々柚佳ちゃんと両想いだったのに拗らせちゃって。お詫びさせて」
「いや、いいよ。きっと何もなかったら、柚佳とはずっとただの幼馴染のままだったかもしれない」
篤の事もそうだ。切羽詰まったから……動かないと柚佳を取られると思ったから行動できたんだ。何も起きなかったら何もないまま、生温い湯に浸かるように幼馴染のまま。篤じゃなくても他の奴に柚佳を奪われる未来だってあったかもしれない。
「いい切っ掛けだったと思う事にするよ。おかげで柚佳が……花山さんにオレを取られると思って焦ったっぽいし。あいつの気持ちが解らなかった時は不安だったけど、今思えば感謝してもいいくらいだ」
そう花山さんに笑いかけた。花山さんは目を大きく見開いてこちらを凝視していた。しみじみと言われた。
「沼田君……。あなたほんとにいい男ね」
「ちょ? 美南ちゃん?」
オレへの賛辞に和馬が反応する。花山さんはそんな和馬を無視し、オレに微笑んで見せた。
「やっぱりお詫びはさせて?」
「お、お詫び? 美南ちゃん、何をするつもりなんだ」
キョドっている和馬をやっぱり無視して花山さんは話を続ける。
「今度の土曜日……あさってなんだけど。一日空けておいてほしいの。一緒に行ってもらいたい所があるんだけど」
「……美南ちゃんっ?」
花山さんのオレへの要望に、無視され続ける和馬は半泣きだった。
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