58 集合
オレたちの住む地方都市にある中では一番大きな商店街。その近くにあるバス停に土曜日の朝、集合した。花山さんの意向でオレのほかにも柚佳、篤、篤の妹の美緒も来ている。昨日誘った。そしてもう一人……。
見知った顔触れの中にいた美少女に、オレの隣にいる柚佳の目が見開かれる。
「写真の子!」
柚佳の小さな呟きが耳に届く。心なしか少し睨むような険しい表情をしている。
「何で……あの子も一緒なの?」
独り言みたいに囁かれた疑問はオレにしか聞こえていなかったようだ。柚佳の変化に気付いていない様子で花山さんが明るく言った。
「さあ、皆揃ったしバスも丁度いいところに来たし。行きましょう! 今日はよろしくね」
首を右に少し傾けてニッコリ微笑んでいる。
花山さんはここ最近、彼女の父親の伝手でもらった遊園地のチケットをいつ使おうかと考えていたのだと聞いた。有効期限も迫っていて、今回が使い切るいい機会とオレたちを誘ってくれた。
そして何故、和馬が「マキ」の格好で参加しているのかというと……。
これは花山さんが企画した「罰ゲーム」だ。今日一日「マキ」が「和馬」だと、柚佳と篤と篤妹にバレないように過ごせという指令が和馬には与えられている。
一昨日、和馬の正体が花山さんにバレた後こんな話をしていた。
遊園地に行きましょうと言われ戸惑うオレに花山さんはニコリと笑った。
「安心して。柚佳ちゃんも誘うわ。ついでに桜場君と妹ちゃんも誘っちゃいましょう! 楽しみ!」
もちろん和馬が口を挟む。
「……美南ちゃん、俺は? 俺も行っていい?」
「ダメよ」
花山さんの無情な返答に、黒髪美少女姿の親友がぐっと顔を強張らせたように見えた。そんな和馬に妖しく細めた目で一瞥を送った花山さんはゆったりと微笑んだ。
「でもそうねぇ。『マキちゃん』は誘ってもいいかもね」
「えっ……?」
和馬が顔を上げ花山さんを見つめる。彼女の真意が分からないと言いたげに。緊張の窺える面持ちだった。
そして花山さんは愉快そうに首を傾げ、正体がバレなければ和馬の「所業」も水に流してもいい……だけどバレたら数多の友人に教えまくってやるわと悪魔めいた美しい微笑みを浮かべたのだった。
思い返してゾッとしているオレの上着の右袖が引っ張られて、前にいる柚佳を見る。振り向いて袖を摘んできた彼女と目が合う。
「どうしたの海里、早く乗ろう?」
篤と篤妹は既にバスに乗り、オレの後ろには花山さんと「マキ」が並んでいる。
急ぐよう促す柚佳は、今日は若草色の丈の長いシャツに暗めな紺色のデニムを穿いている。髪は結ばず垂らしている。休日の外出用私服姿の柚佳。控えめに言っても可愛い。
袖を引かれるままバスに乗り込む。バスターミナルに近いバス停だったからか乗客はまだ少ない。
篤たちは一番後ろの向かって右側の席に二人詰めて座っていた。窓側に篤妹、その隣に篤。
一番後ろの、彼らとは反対側の窓際に柚佳を座らせ隣に腰掛ける。
篤と目が合って睨んでやった。柚佳を篤の目に触れさせないようにオレが壁にならなければ。
何故か篤は嬉しそうにも思える笑顔。くっ……! 余裕の差で負けている気がして悔しい。篤はシスコンだと分かっていても柚佳が可愛いから気が気じゃない。心変わりされたら困る。
花山さんと「マキ」も後方へ来た。最後方の座席は五人まで座れる仕様だ。二人とも座るのは無理そうだったので花山さんと和馬は一つ前の席なのかと思っていた。
しかし花山さんはオレと篤の間に腰を下ろしてきた。「マキ」は一つ前の窓側に着席している。
「えっと、か……あいつ、一人にしていいのか?」
「いいのよ」
質問したオレに間髪入れず花山さんが微笑みかけてくる。口元に手を当てた彼女にヒソヒソと教えてもらう。
「あまり喋らない方があの子にとっても都合がいいの」
あ、そっか。ほかの三人にバレないようにって事か。でも、せっかくの遊園地。しかも好きな女の子と一緒の。きっと和馬だけ手放しに楽しめないのではないだろうか。いくら色々やらかしているからって言っても……難儀な奴。
少し和馬に同情した。
オレたちを乗せたバスは休日の道路をスイスイと順調に進んで行く。今は大きな道路を左折し橋を渡るところだ。川面がキラキラ光を反射しているのが見える。窓の外を眺めていた柚佳がこちらに瞳を向けてきた。
「友達と遊園地行くの初めてかも! 海里とも初めてだね!」
笑顔が眩しい。思わず目を細めてしまう。直視するのは心臓に負担が大きい。足元に視線を逸らして一旦落ち着けようとした。
落ち着けオレ。ここはバスの中。公共の乗り物。家の中じゃないんだ。外だぞ外。
「海里……?」
柚佳の呼びかけに再び視線を右へ戻そうとしたら……。
「うっふふ! 沼田君って分っかり易ーい!」
左側から聞こえた花山さんの発言にオレの体が動きを止める。右へ向けようとしていた顔を左へ向けた。
「花山さん……何が分かり易いって? 何の事?」
とぼけて微笑んでみる。
「あら? 言っていいのかしら?」
こちらへ微笑していた花山さんの目がエグい具合に細まったように感じた。
「生意気言ってすみませんでした。言わないで下さい」
オレはすんなり引き下がった。
この人は敵に回したらダメだ。学年の女子の頂点に君臨する程のカリスマ性も持つ花山さん。彼女の一言できっとオレの高校生活はどうにでも変えられてしまう事だろう。
何より考えていた内容を言い当てられて柚佳に知られるのも恥ずかしい。何でオレはいつまで経っても余裕がないんだ。
花山さんが指でちょいちょいと耳を貸すように合図してきた。拒む事もできず仕方なく身を屈める。コソコソと抑えた声で話かけられた。
「柚佳ちゃんはねっ、私も……こんなにピュアで眩しい子はほかに知らないわっ! どうせ二人、キスもまだなんでしょ? いくら沼田君に勢いがあっても、あの子の純朴さには勝てないんじゃない? きっと柚佳ちゃんの事だから恥ずかしがって『まだ早いと思うの!』とか言いそう」
「うーん、そうだったような」
過去にキスの途中で似たようなセリフを言われた事を思い出す。……ていうか、柚佳は花山さんに詳しく話してないんだな。
苦笑いしていると花山さんが勝ち誇ったようにニヤリと口元を歪めた。
「やっぱりね」
「えっと、あの……」
柚佳が話に割って入った。どうやら聞こえていたようだ。彼女の頬は赤く、目線がこちらと右下を行ったり来たりしている。
「それが……」
もじもじと言い淀んでいる柚佳に何かを察したのか、花山さんがハッとした表情で動きを止めた。
「えっ?」
花山さんから思わずといった気配の声が零れる。柚佳は俯いてまだもじもじしている。柚佳を凝視する花山さんの目が大き過ぎて怖い。再び、花山さんの口が開かれる。
「えっ? まさか?」
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