47 ケーキの後


 引き寄せて抱きしめるといい匂いがした。


 柚佳の背に腕を回す。幸せを噛み締めた。

 細くて柔らかい身体。

 あっヤバい。


「柚佳ごめん。オレもう我慢できない」


「う、うん」


 柚佳の上に身を預けるようにベッドに体を沈めた。






 限界だった。


 思い返せば、夜中に色々考えていて朝方一時間しか寝ていない。

 柚佳を抱きしめている安心感で深く心地よく眠れた。











 翌日、昼頃目が覚めた。瞼を開くと隣に柚佳がいて、じっと顔を見られていた。


「う、わっ」


 同じ布団の中にいたので戸惑う。



「おはよう海里。疲れてたんだね。いびきかいてたよ」



 そう温かく笑い、ベッドから出て背伸びしている彼女を眺める。昨日のスカートとブラウスだった服装と違って今は薄ピンク色のパジャマ姿だ。



「ねぇ海里! ケーキ食べようよ!」


 柚佳の部屋の折り畳みテーブルを挟んで向かい合って座り、昨日オレが寝てしまって食べられなかったケーキを二人で一緒に食べた。


 窓からの爽やかで明るい光の中にいる彼女は、さながら天使か女神のように美しい。


 昨日は『オレ以外考えられなくさせてやる』と決意してここへ来たけど、結局はオレの方が柚佳に翻弄されるばかりだった。


 あれだけ真剣に読んでいた恋愛指南本の小技たちも使う機会がなかった。というか覚えた筈なのに何一つ思い出せなかった。きっと柚佳の話の方が強烈過ぎたのと寝不足だったせいだろう。勉強も全然捗らなかったし。


 それに昨日のオレは本当にどうかしていた。……何故あの時、眠ってしまったのだろう。


 今目の前で無防備にケーキを頬張っている柚佳を盗み見る。白い首元に目が吸い寄せられる。彼女が着ているのは普通の長袖長ズボンの……露出の少ないパジャマなのに、そのめったに見る事のできない特別感からか色々な膨らみを意識してしまう。



 早々とケーキを食べ終わってテーブルに突っ伏していると柚佳が切り出した。


「海里、勉強……」


 やっぱり今から勉強するよね? 欲望に負けそうな自分を理性に従わせないと。だらしないところを見せて彼女に嫌われたくない。



「勉強、後でもいいかな?」



 柚佳の提案が思いがけないものだったので目を開いて顔を上げた。真意を問うように見つめていると右下に視線を逸らされた。指を少しだけ曲げた右手で口元を隠した様子で、薄ら頬が赤いようにも見える。



「そっちに行ってもいい……?」


「え、あ。ああうん」



 何とか返事をする。柚佳が立ち上がった。オレの隣へ来てこちらを向いて座った彼女とキスが始まって、すぐに理性が負けてしまった。

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