18 隠し事


 何だろう。柚佳との会話にすごく違和感を覚える。かみ合っていない気がする。



 柚佳は、オレの告白を嘘だと思ってる? 柚佳がオレの事を好きだから責任を感じて嘘の告白をした……そう言ってるよな? どういう事なんだ?



 そこまで考えて、はた……と思い至る。柚佳はオレの事が好き……?


 胸の内に仄かに希望が宿る。


 ……いや待て。早まるな、オレ。その言葉すら真実じゃないとしたら、信じた後に残るダメージは計り知れない。


 もう二度と立ち上がれなくなる悲しい未来が容易に想像できて、惑わされそうだった心を強く律した。


 これ以上深く踏み込むのは止そう。……心ではそう思っているのに、すぐ傍に彼女がいると意識しただけで何かの力が作用するように離れがたい。本当はいつも一番近くにいたいのだ。





「オレが言った事は嘘じゃないから」


 長めの前髪の間から、彼女を強く見つめた。微笑んでいた柚佳の顔に戸惑いの色が差す。


「証明する。オレが柚佳を好きな事。告白したのは責任を感じたからじゃない。そんな義務のようなものじゃなくて、その……」


 こんな事を言わせるなんて。オレの幼馴染は無自覚にとんでもない奴だ。耳まで赤くなっていそうな己の顔を腕で隠す。視線を彷徨わせながらしどろもどろに口走る。


「お前が可愛すぎるから……。付き合えたら、オレに繋ぎ止めて一生放さないつもりだったんだ」


 彼女は少し口を開けて気の抜けたようなポカーンとした顔をしている。


 だめだ。結構恥ずかしい思いをして打ち明けたのに、相手には伝わってなさそうな温度差。





「嘘だよ」



 彼女が真顔で言った。踊り場の右奥へと後退りして、オレと距離を置こうとしているのが分かった。だから静かに冴える心情で薄く笑った。



「嘘じゃない」



 言い分を譲る気はなかったので彼女から目を逸らさない。柚佳が一歩退いた分、オレは一歩距離を縮める。







 とうとう彼女は背後の壁に行き当たって、後ろに進むのを止めた。


「だって海里は――」


 柚佳は何か言いかけたけど、途中から言葉を呑むように口を閉ざした。



「何? ちゃんと言ってよ」


 オレが続きを促すと、彼女は俯いて気落ちしたような暗い声を出した。



「……海里はキスの上手い子が好きなんでしょ? 私よりも、その……。――可愛い子なんてたくさんいるし」


「本気で言ってるの?」



 こんなに伝えているのに、まだ足りないみたいだ。



 思っていた以上に彼女は……。後ろ向きな思考になって恨み言を言うくらいには、オレの発した言葉に影響を受けているらしい。







 その柔らかな頬に手を掛け、上を向かせた。顔を近付けると、目を閉じてくれた。



 優しく、何度も唇を合わせた。







 少しの間放して、本当の事を教える。


「ごめん。オレ嘘ついてた」


 柚佳が目を開いて不安そうにオレを見た。



「オレ、キスしたのは柚佳が初めてだったんだ。他の誰ともした事ないし、するつもりもないから」



「嘘よ。信じない」



 彼女の目から大粒の涙が零れた。



「だって、私知ってるもの! ……――何でもない」



 まただ。何か言いかけては途中で止める。



「何を隠してるの?」


 問うと視線を逸らされた。



「ふーん?」


 わざとらしく呟いて、彼女の頭にキスを落とした。次に目元、次に頬。



「どうしたら信じてくれる? オレに心を開いてくれる? オレは柚佳の秘密を誰にも言わないし、どんな柚佳も受け入れるよ」



 さっき篤と柚佳が話していた彼らの『本当の関係』。それがずっと気がかりだった。何であるにせよ、オレはもう柚佳の手を放さないと決めた。


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