15 悩みの種
帰る道すがら、さっき起こった事を考え続けていた。
一体何だったんだ? 写真を撮られたよな? 何で? 恐らくオレと、あのよく分からない女の子との……。
あの時、彼女の顔がすごく近かった。
綺麗に化粧をした隙のない顔立ち。見透かすような黒の瞳。制服の下に着用している黒いハイネックのインナーと肌の白さのコントラスト。
あともう少しで唇が触れそうな距離だった。
もしも柚佳と出会っていなければ、彼女に恋をしたかもしれない。でも、オレは柚佳がいい。それは他の誰にも揺るがす事はできないだろう。
内心大きく頷きつつ、思考を本題に戻す。
あの時。オレたちの後ろ……教室前方に近い廊下の辺りから写真を撮られたんだと思う。角度によってはキスをしているようにも見えるかもしれない。多分あの女の子と写真を撮った奴はグルだ。
何が目的なんだ?
1、柚佳にあの写真を見せてオレが嫌われるよう仕向ける。
2、柚佳にあの写真を見せるとオレを脅してくる。
3、実はあの子は密かにオレの事が好きで、オレの弱みを握って手玉に取りたい。
取り敢えず考え付いた事を三つ、頭の中に整理してみた。
……3はさすがにこれはない。いくら柚佳に好かれていると分かり舞い上がっているからって言っても調子に乗り過ぎだろう、オレ。
じゃあ1か2だろうか? 柚佳を好きな誰かの差し金で? それとも喝上げ?
柚佳を好きな誰かと考えて真っ先に篤が思い浮かぶ。
いやいや、証拠もないのに疑うのはよくない。それにアイツはそんな事をするような奴じゃない筈だ。
ああ、でもそっか……。
家への道を辿りながら肩を落とした。あの写真を柚佳が見たら……、オレ、嫌われるかもしれないんだ。
つい一、二時間前まで有頂天だった心が陰りを帯びる。明るい筈だった未来への展望が曖昧にぼやけていく。
…………そんな事にはさせない。あの子を見つけて、どういうつもりか聞く。せっかく柚佳がオレの事を好きだって分かったのに、この幸せを壊されてなるものか。
アパートに着いた。鞄を渡しに柚佳の家へ行く。ちょうど彼女は入浴中だったようで鞄はおばちゃんに預けた。
次の朝、家を出るとアパートの階段下に柚佳がいた。
「海里、昨日はありがとう。鞄、結局取ってきてくれたでしょ?」
「お、おう……」
一緒に並んで歩きながらお礼を言われ、昨日モヤモヤする事はあったけど鞄を取りに行ってよかったとしみじみ思った。我ながら現金な奴だなと自分に苦笑いする。
そんなオレの顔を柚佳がじっと見上げてくる。
「海里、何かあった?」
「え?」
「何かいつもと違う」
指摘されてドキッとする。昨日の女の子との一件が心に引っ掛かっていて、あまり眠れなかった。別に何もやましい事などしていないのに、何でこんなに不安にならなくちゃいけないんだ。
俯いているオレに柚佳が心配するように声をかけてくれる。
「海里?」
――おのれ、許すまじ。オレと柚佳の仲を引き裂こうとする者は、誰であっても許されない。たとえその首謀者が篤であったとしても。必ずその悪だくみを暴いて柚佳との平穏で幸せな未来を手にしてやる。
「海里、何を考えてるの? 顔が怖いよ」
柚佳に言われて我に返る。いつの間にか左手が彼女の右手と繋がれていて指の絡む感触にどぎまぎした。
「あっ、ごめん。繋いでみたくて」
俯いて照れたように笑う横顔に心拍数が上がる。昨日の夕方は色々な感情があって勢いのまま彼女の手を引いて帰った。その時はそんなに意識してなかったけど。
改めて繋いでいると緊張で手汗がヤバい事になりそうだった。
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