第3話

体に鈍い痛みを感じながら男は目を覚ました。

穴に落ちてどれほどの時が経ったのか。数分?数十分?さすがに数時間ということはないと思うが。何にせよ、男にそれを知る術はない。

穴はなかなか深いらしく、一般的な成人男性の体躯でも脱出は不可能に見えた。

それならばと辺りを見てみると、男が立っている場所を中心に周りに何本かの通路が放射状に広がっていた。頭上の穴から射すもの以外にその通路から光源を確認できた。


これは本当に夢なのだろうか。痛みを感じてはいるが一向に覚める気配がない。自分の眠りはこんなに深いものだったろうか。


呆けてばかりもいられない。要塞のような冷たい壁に囲まれ男はここには何らかの知的生命体が生息しているらしい、と結論付けた。それが自分を受け入れてくれるかどうか……。自らの夢で不安に駆られるとは変な話だ。もっと自由になってもいいじゃないか。複数のうちの一本を選び、男は歩き出す。


しばらく進むと行き止まりになっていてこれ以上は進めなかった。引き返すしかないと元来た道を振り返ろうとしたところで背中に衝撃を受ける。足の力だけで支えきれず、男は前に倒れこんだ。目の前にコンクリートのような固そうな壁が迫ってくる。ぶつかったらさぞ痛いだろうと男は己の運動神経の無さを呪いながら、せめてもと目を閉じた。


しかし、覚悟していた衝撃が来ないので、そっと目を開けると目の前の壁が消えていた。妙な感覚のある腹部に目をやると、先ほどまで壁だった場所に半分透けた膜のようなものが張ってあってそこに引っかかっているらしかった。中途半端な角度から恐る恐る体を起こし振り返ると、あのうさぎがいた。同じ個体かはわからないが相変わらずくりくりとした青い瞳でこちらを見つめている。

数秒の間無言でお互い見つめあっていたが先に行動を起こしたのはうさぎだった。男の足を潜り抜けて通路に入ると付いてこい、と言わんばかりに鼻先をくいっと前に向けた。


今は逆らわない方がいいのではないか、となんとなく落ち着かない気分になりつつ男は付いていくことにした。

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