第2話
白衣の男――今は白衣ではなくスウェットだが――は夢を見ていた。
男は月にいて、一人佇んでいる。周りを見回してもクレーターらしきものが見えるだけであとは殺風景。ふと遠くに青い星が浮かんでいるのが見えた。
地球だった。
青い水が湛えられたその星は美しいの一言で表すには惜しいくらいの輝きを持っていた。いつぶりかの感動で男が見とれていると視界の端を横切るものがあった。
反射的に目で追うとそれはうさぎだった。真っ白な体に深い青の瞳。丸いフォルムのはずなのにどこか現実味のない平坦さがある。それは間違いなく、今日あの男性から聞いたうさぎだった。うさぎは立ち止まり、地球を見つめている。
彼の話に影響されて夢に出てきたのだろうか。
ふと湧いた好奇心からそっとうさぎの背後に移動し、ゆっくり近づいていく。所詮は夢ということだろうか、地球との重力の差は感じなかった。
あと1メートルもない、少し踏み出せば簡単に捕まえられる距離まで近づいても、うさぎが動く様子はなかった。特に目的があって近づいたわけではなかったが、ふとあの若い男の言葉を思い出した。
『次に同じ夢を見たら、僕はあのうさぎを正面から見てみたいです』
そわ、と心がざわついた気がした。
息を殺して近づきながら、その薄ぼんやりと光を発しているように見える真っ白い背に手を伸ばす。あと少し……というところで、急にうさぎが動いた。うさぎの視野がどれほどか知らないのでひょっとするとこちらに気づいたのかもしれない。あるいは音に反応したのか。うさぎらしい俊敏さであっという間に距離が開いたかと思うと、これまた急にうさぎが消えた。
消えた場所へ向かうと、そこにはぽっかりと大人一人が余裕で入れるくらいの穴が開いていた。暗闇ばかりで底は見えない。
白うさぎ。穴。
……入るべきか否か。
男は
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