第3話 文字愛狂詩曲
一方、文字オタクとしてのクレイジーさが
小学校も半ば頃、亜美は文字を一から覚える過程を初めて意識する。
亜美が出会ったのはキリル文字。それはバレエの何かに書かれていた。
程よくラテン文字に似て異なるキリル文字は取っつき易さと、謎故の刺激を併せ持つ文字だった。亜美の知りたい熱は燃え上がる。
「これは何が書いてあるの!? 意味は? 音は? この文字の背景ストーリーは!?」
当時の心のカオスを翻訳すると以上だ。
しかし、OCRどころかインターネットのない時代。それがキリル文字だとさえ判らない。
只、ロイヤルバレエ団は英語、パリオペラ座はフランス語とラテン文字を使用する有名
そして、幼い時から新聞を
テレビ欄のNHK教育チャンネルに『ロシア語講座』の文字があることを目が覚えていた。
亜美はお使い中に書店に入り、NHK講座のテキストを探すと
そうして文字を覚える困難を亜美は思い知る。
落とし物の多かった亜美はお使いに出る時、買い物メモとお金以外、持っていないかをチェックされた。本屋を出てすぐ新鮮な記憶を書き留めることはできない。
寄り道がバレない何分かで覚え、家に帰り、手伝いを二時間程、済ませてから、こっそり書き溜めるのだ。そこまで確実に記憶をもたせるには一回で二文字までに絞った方が良い、と気付く。文字の形より音を組み合わせて覚えるのに苦労した。
結果、不定期の書店通い三ヶ月程でロシア語三十三文字の表が完成する。
この時の喜びをこそ狂喜と言うのだと亜美は思う。最早、狂気の方が正しいかもしれない。ABCには歌がある為、
しかし、次第にそれでは物足りなくなる。カタカナで書かれた音は本当はどんななのだろう。そして、この文字はどのように使われるか。知りたい気持が膨らんだ。
普通はここでNHKを見せてもらえば済むが、亜美が許される見込みはゼロだ。放送が早朝では隠れて観ることもできない。
そこで昔からラジオを持つ兄がダブルラジカセもその頃、買い与えられた為、亜美はラジオ講座に方向転換する。
只、潔癖な亜美の兄は所有物を貸さなかった。数年、
千秋にとって長子と男子は身分が違う為、断られるのは亜美が
それを狙った。
長男の行為は余程でなければ許される為、余程を超える展開を選び、結果は予想通りである。それにより亜美はお下がりのカセットテープ一本と、兄のラジカセでのロシア語講座数回の録音権を手に入れた。
亜美はそれを古い古いテープレコーダーで再生し続ける。ロシア語の文字と音の関係に
そこまでしても文字を読みたかった亜美は成人後、『ガラスの仮面』という漫画を読み、舞台のチケットを手に入れる為、ボロボロになる冒頭のヒロインに
こんな亜美も中学生になると周囲に
当時はオタクと非オタクの間の壁が非常に高かった。亜美は隠しようもない自分のオタク体質と似た生態を探し、アニメオタクと親しくなったが、その頃のアニオタへの風当たりは半端なく強い。亜美自身、コミケに誘われ、しばしばコスプレを依頼されて断るのに心が折れかけた。
しかし、二次元系の人と仲良くなれる感覚が後に亜美をオタクとして解放することになる。
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