第19話 佐藤氏の警護

 俺は佐藤氏の日程を確認していた。


もう舞と別れて一年経っていたが舞の事は忘れられなかった。


今日の警護は俺の担当だった。俺は上司に佐藤氏の警護へ行く報告をしていた。


門衛から上官に連絡があった。


(若い女性が祐介の事を聞きに来ているらしいがどう処理していいか?)


上官は説明するから女性に門で待つようにと伝えた。


上官は私の顔を窺いながら話した。

「特別な任務で祐介君は此処にはいない。場所は教えられない。後二年経って無事だったら連絡させると彼女に話してみる。警護の車は中まで入るように伝える。辛いけど我慢してくれ」


「はい、分りました」


俺は事務棟の影に隠れ車を待っていた。上官が門で舞と話していた。


時々、工場内を覗くように見る舞の顔が懐かしく感じた。


黒い車が門を通過して入ってきた。事務棟の影で俺は素早く助手席に座った。


車は向きを変え門から出た。助手席はスモークガラスで舞から俺は見えないが、立っている舞の横を車が通った時、直ぐ側に舞が感じられ記憶を失った一カ月間の思い出が蘇った。


この先、舞に会える確証はなかった。


佐藤氏の予定は午前中に首相と会談して午後は病院だった。


病院へ向かう時は伴走車に乗っていたが、帰りは佐藤氏の車に同乗するように言われた。

佐藤氏の指示だった。車に乗ると佐藤氏が聞いてきた。


「祐介君は今の世の中の状況どう思う? 国民点数制とか地下施設とか?」


「すみません。学歴がないので旨く答えられませんが、国民点数制は真意が良く分かりません。地下施設は地震と核の為の施設だと噂されています。米軍の撤退、原潜の核装備など物事が早く進み過ぎると思います。もう一つは大国人で何を企てているのか分からなくて不安です」


「そうか、多分、国民もそう考えているだろう。私はある病気で長くて後五年と医者から告知された。2025年の四月に国民点数の結果を発表する事は知っていると思うが、その後にこれから起きることを首相は発表する。

それは、絶対の極秘事項で今は言えないが、発表後、政府の組織は地下施設に入る。中には住居や生活に必要な施設があり、其処に入る資格が国民点数の高い順になる。地方にも同様の地下施設があり、やはり点数の高い順となる。地下施設と海底マンションを合わせても国民の二十五%しか入れない。政府が地下に入ったら地上の日本は無法地帯になる。それが大国の狙いで占領目的が予想される。私は首相の依頼で地上に残って臨時政府を立ち上げる。恐らく、大国も臨時政府に諜報員を潜入させて私を狙ってくるだろう。その時に祐介君が警護でいてくれたら心強いが君にも事情があると思う。まだ先の事なのでゆっくり考えてくれ、また断わっても地下施設で首相の警護をすることになるだろう」


「分かりました。考えておきます」

返事をしたが絶対の極秘事項とは何だろう? と気になった。


次の日に上官に佐藤氏と話した内容を伝えた。


「祐介君は政府の地下施設で警備隊員になって貰う予定だった。まだ時間があるから良く考えて決めて欲しい。臨時政府も狙われ崩壊することも考えられる。もし生きていたら地下施設に戻って欲しい。実は警備隊員は元自衛隊員で全国に分散しているので人数が少ない。ましてや政府の地下施設に二千人しかいない。1DKも用意してあるので、その時が来たら戻って欲しい」


「でもその時は封鎖してあるから後から施設に入るのは難しいのでは

ありませんか?」


「一か所だけ秘密の通路がある。かなり出入口から離れているが口頭で説明する。首都郊外線の谷山トンネルの中央部の左側にドアがある。其処から入れば通路になっている。連絡はこの押しボタンを押せば解錠してくれる。それと、あと何か所か計画しているようだが位置は未定だ。それから彼女から預かった物がある。祐介君の仕事先に届けると話してある」

ボタンと紙袋を渡してくれた。


部屋に戻って紙袋を開けると新しいパジャマと下着が入っていた。

それと二人で自撮りした富士の絶景の写真が入っていた。


忘れないでと言われているような気がした。

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