第13話 黒岩の記憶

 夢で記憶を思い出しているようだ。


自衛隊用の耐火服の実験を引き受けた。


かなり大きなブースの中で酸素ボンベを背負い耐火服を着て模擬銃を携帯し歩き廻り、腰を降ろして射撃の構えをする。


かなり過酷だったがこなして行った。それが自分に合っているように感じていた。


実験は三百度の二時間で終了した。


自衛隊の幹部と屈強の隊員がやって来た。


俺と同じ装備で確かめたが隊員は俺ほど早く動けなかった。


それを見ていた幹部は自衛隊の警護隊員になるように勧めてきた。


体を鍛えていた俺にとっては結果を出せる機会なので承諾した。


繊維メーカーの工場の地下にある施設で本物のマシンガンでの実射訓練、格闘技の稽古などをした。


アパートに住んでいて、政府の要人の警護も時々していた。


ある時にテレビから(黒岩)と言う言葉が聞えて来た。


殺人事件の報道で東京近郊の山の中で山菜を取りに来た人が死体を見つけた。

死体は顔が潰され身元が不明だったが下着の隅に小さい文字で黒岩と書かれていたとの内容だった。


死後一週間ほど経っていたらしい。俺はあの黒岩かと思ったがそれ以降は放送されなかった。


俺は黒岩の生い立ちを思い出した。北関東で東北との境目に近い地方の出身だった。


母子家庭で貧しかった子供の頃の話を良く話していた。


確か、母親が学習用具とか持ち物に名前を描いてそれが嫌だと言っていた。


下着に書かれるのも当たり前で何時しか自分もその癖が付いたと話していた。


下着の黒岩の字は間違いなく彼だと確信した。

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