第4話 国民点数制

 夜八時少し前に舞は帰って来た。


「あれ、カレーの臭いがするけどキシツが作ったの?」


「うん、そうだよ。料理が出来たことが分かった」


「偉いね! それに洗濯物も取り込んで偉いね」


「大雨が降ってきたから」


偉いねとか二回も言われた。子供と思われているのか? 記憶喪失でほぼ頭の中は空だから仕方ないか? 


「ちょっと味見して見る」言いながら鍋の蓋を開けスプーンで掬い口に入れた。


「美味しいよ! これ夕食にしよう。買って来た唐揚げ、サラダ、刺身はツマミにして飲みましょう」舞は何故か嬉しそうだった。


「酒を飲む?」


「そうか、キシツは酒が飲めるかどうか分らないんだ?」


「分からないけど、手にたこがあることや、安全靴を履いていたから肉体労働者かもしれない。それなら飲めるかもしれない」


「料理の出来る労働者そこまで分ったのね? じゃお祝に飲みましょう」缶麦酒とコップとツマミをテーブルの上に並べた。


「明日は定休日だから、ゆっくり出来そう。でも何処かに旅行に行きたいね。キシツと」


「そうだね」言いながら麦酒を口に付けた。


最初は苦みが広がったが慣れている味で飲める気がした。


「大丈夫?」


「大丈夫だよ、缶麦酒一個位は?」言いながら居酒屋の風景が一瞬頭に浮かんだ。


「あっ、舞に封書が来ていたよ。区の国民点数制課から、その名前聞いた事があるような気がするが?」

テーブルの隅にあった封書を渡した。


舞は中身を見て「大分前に来ていたんだ? 二百六十二点だって、意味が分からない?」話して俺に見せた。


⑤の納税額が年に百万を超えるので百点で合計二百六十二点と書いてあった。


「⑤は五番目だけどその前は? 何故点数を点けるの?」


「最初は三年程前に政府が国民点数制法として国民に点数を付ける法律を施行すると発表したの、点数の高い順に資格を与えると言っていたわ」


「何の資格?」


「政府は資格の事は説明しなかったの、評論家達が年金を早く貰えるとか、優先して介護を受けられる資格といっていたみたいだけど信憑性がなかったわ」


「で、最初の点数は何?」


「国民点数制の①として年齢による点数を付けたの。簡単に説明するとその年に六十五歳になる人を零とする。これを基準に数字が増減していく、例えば八十歳はマイナス十五、その年に生まれた子供は六十五の点数になる。つまり、年寄りは点数が低く子供が高くなることは分かったの。六十五歳は年金受給の歳で年寄りの冷遇だと言った評論家もいたが国民点数制の真意が分からないので気にはされなかったわ。私には四十二点と封書が来たわ。キシツは其の事は思い出さない?」


「思い出さない。それで点数点けるのは何時まで続くの?」


「二年後の2025年の四月一日に点数を公表するらしいの」


「②、③、④は?」


「話が長くなるから簡単に話すね。②は学歴、③は地域性、住んでいる場所が都会か田舎で点数が決まる、④は国家資格、つまり医者とか弁護士」


「つまり、子供と偉い人に資格を貰えるみたいだね? で何の資格だろう? 大した事は無さそうだが?」


「あっそうだ、噂だけれど国と地方の行政が秘密に地下施設を作っているらしいよ。地震とか災害の為らしい。点数制の資格は其処に入れる資格だと言う人もいるわ」


「今日の情報番組での海底マンションも良く考えれば避難施設に近いと思う」


「核シェルターと言う人もいるよ、原潜を六隻建造して今年中に核弾頭を一隻六発ずつ搭載するらしいから。米軍が撤退し核の傘から外れるからと政府は

説明していたわ」


「舞は色々詳しいね。何処で聞いてくるの?」


「うちの店は中年の女性の服の販売が主なの、奥さんと一緒に旦那さんも来る。会社の役員とか官僚が多く、奥さんが試着する時に旦那さん達と世間話するから」


「核か? ・・・・災害とか急に世の中が変わってきた気がする」


「私たちは三年かけて徐々に受け入れて来たけどキシツは一度にだから戸惑うね」


「災害が過ぎてから、また恐ろしい事が起きる気がする」言いながら俺は二本目の缶麦酒を開けた。


「キシツ、大丈夫そうね」舞も二本目を開けた。


二本目を呑み終わり、まだ飲めそうな気がしたが、意識がブレーキを掛けて来た。これ以上飲むなと命令されている気がした。


立ち上がり居間に行きサッシを開けてベランダに出た。


「大丈夫? もう飲まないの?」舞の声が聞こえて、三本目の缶麦酒のプルを引く音が聞こえて来た。

まだ舞は飲むのか? と思いながら向かいのマンションを見つめた。


階段が二か所と各階に外廊下が見えた。手前の駐車場から夫婦なのか? スーパーの袋を提げたカップルが階段を上がり外廊下を通り、時々仲良さそうに話し部屋に入って行った。それを見ていると同じ状況が自分にもあったような気がした。


「キシツ? 何を感傷的になっているの? もう寝よう、先にシャワーを浴びて寝室に行って、私は台所を片付けてシャワーを浴びるから」


俺はシャワーを浴び寝室のベッドに仰向けになった。


酒の影響もありウトウトし始めた。心地よい感じだった。


急に体に何か乗った感じがして目を開けると舞が馬乗りになり、顔が目の

前にあった。


「キシツ、ずっと此処にいるよね?」


「うん」答えると嬉しそうに抱き付いてきた。


俺は舞がなすがままに身を任せが、時々舞と違う女性の顔が見えた。

前に付き合っていた女性なのか?

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