第35話 魔王(の影)出現

エドワードは無駄な犠牲を出すことを嫌い、急ぎ決着をつけることにした。

上空から魔物の大群に向けて長い呪文を唱え始める。


【瘴気よ滅せ】


起動呪文を唱え終わると同時に美しい光が上空から舞い散り始める、それはまるで雪のように美しい光景であった。


◆◇◆


「お師匠さん!あぶねぇ!」


「あぁ?」


その時、突如として空から無数の光の矢のようなものが降り注ぎ、魔物の大群を貫いた。


「なんだこれ……」


アーベルは光の矢に触ってみるが、素通りしてしまい掴むことはできない。


「心配すんな、そいつは瘴気にしか効かねぇ『加護持ち』が使う魔法だ」


「すごい……」


「えぇ……そんなもんまであるのかよ」


「あぁ、大聖女様からの借りもんだから、だがそう何回も使えねぇらしいな。初手で使った充填型大規模魔法ほど範囲も広くねぇし威力も弱い」


「へぇ~」


三人が話していると、不意に頭上から声がした。


「何ノンキに話してるんです!来ますよ!」


エドワードが喝を入れていると、魔物の死体の海を踏み越えて強大な力を持った何かが姿を現した。


その魔物は、真っ黒な肌をした人の姿に酷似してはいるが、頭はドラゴンのようだ。

そしてその眼は赤く不気味に輝いていた。


「なんだあれ……やばくないか」

「見たことないあんなの……」


「はっ!とうとう来やがった……あれが魔王だぜ」


アドルファスがニヤリと笑う。


「あれが……」

「どうするんだよ?」


「あぁ?決まってんだろ、ぶっ倒すんだよ!」


そう言うと、アドルファスは一気に加速して魔王へと斬りかかっていった。


「ちょっと待って下さいよ!」

「おいおい、速すぎんだろっ!」


「まったく……」


エドワードも呆れながらも、着地して後に続いていく。


アドルファスが先陣を切り、それに続いたアーベル、さらに少し遅れてスカー。


「うらぁああ!」


アドルファスが振り下ろした一撃が、巨大な魔物の腕を捉え切り裂いていく。


「何やってるんですかアンタは!」


すかさず、エドワードが呪文を唱える。


【聖なる光よ、闇を祓え】


すると、アドルファスの攻撃で出来た傷口目掛けて、眩しいほどの光が放たれ、魔物の動きが鈍くなる。


「付与が先だって言っておいたではありませんか! 確かにアンタの剣なら傷は負わせられますが、すぐ回復してしまうでしょう!」


まったくもう、とブツブツ言いながらも3人の武器へと神聖魔法を付与していく。


「……これでいいでしょう。さぁ、あとは好きにやってください」


「サンキュー、エド!さぁいくぜ、お前ら」

「はい!」

「まかせろ」


三人は一斉に飛び上がり、それぞれ渾身の一撃を魔王へと叩き込んでいく。しかし、それでもまだ足りないのか、動きを止めただけで、致命傷には至っていなかった。


「ちっ、しぶといな……さすがは魔王ってところか、おい弟子共! 止めは譲ってやるからしっかりやれよ!」


そう言いながらアドルファスは剣へ力を込めて行く、剣は青く光り輝き始め、今にも爆発しそうなほどになっていた。

アドルファスは一気に力を解放する。


「喰らいやがれぇぇ!」


青い光が一際強くなり、彼の持つ剣から放たれた強烈な閃光と共に、魔王の身体を剣が貫いた。


「今だ!いくよアーベル!」

「お師匠さんがくれたチャンス、無駄にするわけにゃいかねぇ!」


魔王の息の根を止めるべく二人は持てる力すべてを賭けて魔王へ攻撃を仕掛ける。

アーベルの竜燐製の剣は白く、そしてスカーの精霊の斧も青く輝く。


そして二人の力を合わせた連携攻撃が魔王へと繰り出された。


『ギャオァァァァァーーー』


凄まじい声を上げながら、魔王は地面へと倒れ伏した。


「やった……の?」


「少し待ってくださいね、最後の仕上げをしますから」


エドワードは、大聖女ミリアに持たされた加護の力すべてを使い魔王の体を浄化していく。


先ほどとは逆に、地上の魔王の体や周辺に散乱していた魔物の体が美しい光と共に天へと昇り消えて行く……。


「これで魔王討伐は終わりです。皆さんよく頑張りました」


エドワードが拡声魔法でそう告げると、ドッ!といううねりの様な騎士達の声が響き渡る。


「は……はは……これでやっと終わったんだね」

「あぁそうみたいだぜ……良く生きてたな俺ら……」


そう言いながらスカーとアーベルはその場にへたり込んでしまう。


「おいおまえら、まだ終わってないぞ。撤収するまで気を抜くんじゃねぇ」


「えぇ~」


「とりあえず、二人は館へ戻っていてください。マーサ達も心配しているでしょうし、皆の無事を報告してから休んでいていいですよ」


そう言うとエドワードは青年組を転送した。


「さて、国王へは簡単な報告だけ通信で伝えて、軍の撤収の手伝いをしましょうかね」


「めんどくせぇ……軍のほうは自分たちでやらせりゃいいじゃねぇか」


「魔物はいいとして、魔族がまだ多少残ってますから警戒するに越したことはありませんよ」


「なら俺は魔族いねぇか探してくるわ! 影じゃ歯ごたえなさ過ぎて運動にもなりゃしねぇ……」


そう言いながらさっさとどっかに消えて行った。


「あれは逃げましたね……まぁ想定内ですが」


エドワードは呆れながら騎士団長の下へと飛んでいくのであった。


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