第36話 バーガ国王への報告
魔王討伐が完了して三日後のバーガ国王城。
連合軍の撤収作業もある程度の目途が付いた為、エドワードとスカーは国王の下へ報告に訪れていた。
「聖人様、この度の魔王討伐への数々の助力、誠に感謝いたしております」
そう言いながら深々と頭を下げるバーガ国王。
「一国の王が頭を下げるなどしてはいけませんよ、礼など不要だと言っているではありませんか」
「聖女様の身分は王より上にある者、ならば聖人様も同様なのですから何も問題ありませんぞ。それだけでなく王家の抱えていた諸問題まで解決していただき、本当に感謝しているのです。もちろん、我が国だけではございません。各国の要人が聖人様方にぜひ直接会お会いして感謝の言葉を伝えたいと何度も打診されております」
エドワードは苦笑いで
「あぁ……各国も聖人と繋がりを持ちたいのでしょうが、私たちはもう少し経過を観察させてもらったらこの世界からお暇させていただきますので、不要だとお伝えください……あぁそれだけでは他国にいらぬ勘繰りもされそうですね……私が各国に直接手紙も書きましょう、それを要人へお渡し下さい」
「それだけではないと思いますが……左様でございますか……聖人様のお心のままに」
「それよりも、スカー殿下についてですが」
「え?私ですか?」
横で話を聞いていたスカーがちょっとビックリした顔をしている。
「まったく……自分の今の立場を少しは考えなさい、『魔王討伐した勇者の一人である大国のバーガ国王子』こんなおいしい物件ならば、他国からつながりを持ちたい者たちが大挙して貴方に押し寄せてくるに決まってるではありませんか」
話を聞いているうちにみるみる顔を青ざめさせていくスカー。
「こ、困ります!」
そんなスカーの様子を苦笑いでみている国王。
「もうすでに、其方宛ての釣り書きが山のように届いておるぞ……ミーツも同様だがな……」
その言葉にエドワードは頷きながら
「ミーツ殿下は王太子ですからバーガ国のほうからいくらでも選べますが、スカー殿下は現状勇者の肩書を得た王族ですからねぇ。婿に欲しいと言われると中々断りにくいでしょう」
「そんな……他国なんて行きたくありません……私はこの国の王族として……いえ、ただの騎士として国の平和を守っていきたいです!」
「他国に婿に行くのも、王族の外交責任の一つなんですけどね……まぁその辺はバーガ国王がお考えになるでしょうし、私から何か言えることはありませんね」
「そんなぁ、聖人様っ!」
「ところでバーガ国王」
「なんでしょう?」
「私とスカー殿下の『婚約届』の件ですが」
「あっ!」
「その件でしたらいつでも無効にできるように取り計らってありますぞ」
「ならば、私が帰った後にバーガ国王のお好きな時期に無効にして頂いて結構ですよ」
その言葉にパッと笑みを浮かべるスカー。
「聖人様! ありがとうございます!」
「なるほど……では、スカー本人が伴侶を決めるまで婚約は続行という事で宜しいのですかな?」
「まぁ仕方ないでしょうね。『世界を救った聖人』との婚約について口を出せる者はそういないでしょうし、私自身は近々この世界からいなくなりますので特に問題ありませんよ、何か言われても『戻ってこないとは言われていない』で押し通せるでしょう。それとミルフィー王子の件ですが」
「はい、現在もう後宮には西妃が外交へと率先して連れ出しております、成人間近の王女以外に子供はおりません。妃も西妃だけしかおりませぬゆえ、後宮は一時閉鎖する事といたします。なので継承権をもたぬミルフィーは成人まで私の居住区画の中に一室を与え、養育することにいたしました。西妃と王女はこれからも他国を回る事が多々ございますので、離宮を用意するという事で西妃も了承しております」
「なるほど、ミルフィー王子は離宮ではなく国王自身の目の届くところに置くのですね」
「はい、実は王太后も自身の『暁の宮』で育てたいと言ってはおりましたが、体調に不安がありますのでこちらに定期的に会いに来るという事で話が落ち着きました」
「なるほど、それなら王太后様もご安心でしょう」
「父上……あの、マーサ達は……」
「あぁ、勿論引き続き乳母と教師として来てもらう予定だ」
「そうですか……良かった」
「そうそう、二人の息子であるアーベルについてだが引き続きスカーの従者でいたいという本人の希望を受けておる」
「アーベルが!……そうですか」
スカーは嬉しそうにその言葉を噛みしめている。
「これからは、其方の側近兼護衛騎士として働いてもらうつもりだ」
「本当ですか!ありがとうございます父上!」
うんうん、と満足そうに頷いているバーガ国王。
こうして城での話し合いは遅くまで続いたのであった。
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