第34話 荒野の戦い2
右翼方面では、アドルファスが大喜びして巨人を眺めているのを横目に、余裕のない二人が懸命に魔物を屠っていた。
「おい!お師匠さんよぉ!なんでそんな余裕かましてられるんだよっ!」
「あぁ? こんな奴ら相手に手こずるわけねぇだろ、もっと五感を研ぎ澄ませば見なくたって周りの様子くらい分かんだろうが」
「そんなの出来るのアンタくらいじゃねぇのかよっ!」
「何言ってやがる!あの聖人様がわざわざ右翼方面には強めに術かけてたじゃねぇか、特にお前ら二人には念入りによ」
その言葉に驚く二人。
「泣き言いう暇があったらもっと集中してみろ!」
「はい!」
「……おう」
早速スカーは目の前の敵に向い集中力を高めているようだ。
真っ黒いイノシシに似た容姿の魔物が、スカーへと突進を仕掛け、その鋭い牙を突き立てようと走り出す。
その様子を真っすぐ見つめていたスカーは、突然世界がひどくゆっくりになったように感じていた。
(なんだこれ……)
そう思いながらも、今ならばなんでもできそうな気がしていた。
次の瞬間、スカーの体がブレたかと思うと、いつの間にか魔物はバラバラになって転がっており、血の海の中に立っていた。
「え?」
「……うわ、スカー!お前今なにやったんだよ」
「よく分からない……相手を見ていたら世界が急にゆっくりになって……」
「……ふーん、なるほどそういうことか」
「どういう事?」
「あのお師匠が言ってただろ?感覚を研ぎ澄ませってよ……つまりこういう事だろ!」
そう言うと、アーベルも意識を集中させはじめた。
すると、先程のスカーと同じように周りの動きがスローモーションのように遅くなった。
そして更に鋭く、そして正確に周りを見渡せるようになっていた。
「ほらな!俺もできたぜ」
「やったなアーベル!」
「おう!この調子でガンガンいくぜ!」
「うん!」
こうして二人は次々と迫りくる魔物たちをなぎ倒していった。
◆◆◆
一方中央側でも、アーテウ達王国騎士が奮戦していた。
「ふぅ、なかなか骨のあるやつもいるじゃないか」
そう言いながら、アーテウは次々と襲いかかってくる魔物を蹴散らす姿はさすが騎士団長にふさわしいものだった。
「よし、そろそろいいだろう。おい、お前ら!こっちは大丈夫だから右翼と左翼へ人員を増やせ!」
「はっ」
部下の騎士たちは一斉に返事をし、各方面へと向かっていく。
そんな時アーテウの背後から、キラリと光を反射するダガーの切っ先が迫っていた。
「団長!」
それを見た団員がアーテウへと叫び声をあげる、しかしすでに遅かった。
「ん?」
そう言いながら振り返ったアーテウの視界には、自分の胸に向かってくる凶刃の姿が見えた。
「なっ……」
自らの油断を悔い、諦めかけたアーテウへと
「させませんよ!」
そんな声と共に光の幕が覆いかぶさる。
ガキィィィン!
そんな音と共に砕け散るダガーと光の幕。
「なっ!なんだこれは!」
姿を消して近づいていた魔族は、驚きと動揺によって『姿消し』を維持できなくなり衆人へとその姿をさらした。
「なっ!魔族がこんなところに」
「くそっ!」
自らの作戦の失敗を悟り、逃げ出そうとした魔族であったがそれを許すエドワードではなかった。
「逃がしません!」
パチリと詠唱破棄した拘束魔法でいつもの簀巻きを作る。
「ケガはありませんか?アーテウ団長」
「はい……聖人様のお心遣いに感謝いたします」
と深々と礼をする。
「止めてください、貴方に何かあってはマーサ殿とパース殿に顔向けできませんから……無事でよかった」
エドワードは若干青くなった顔色でアーテウを見ながら、万が一を想定してアーテウの周辺を、警戒していたのが功を奏して本当に良かったと胸をなでおろす。
「魔族には引き続き十分警戒してください、私はそろそろ大勢を決めてきます」
エドワードはそう言い残し、魔物がもっとも密集している場所へ飛んで行った。
それを見ながらアーテウは
「ご武運を!」
と剣を掲げるのであった。
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