第33話 荒野の戦い 1

 砂漠にほど近き荒野。

そこには有象無象の魔物や魔族がひしめいている。

その様子を荒野へつづく崖上から眺めているエドワードと後方の騎士達と行動しているアドルファスが通信の魔道具で会話していた。


「結構、数増えてんなぁ」


、細かく分けて数を増やしていただけたようですね……これならさほど抵抗なく消滅できそうです」


「最近、魔力ため込んでた魔法陣の事かよ?」


「えぇ、それである程度の数を減らします。 なのでアンタは全軍に待機と、かなり光属性の強い魔法なので目をやられますから、直視しないように通達してください」


「あー ……好奇心に殺されるバカが出ない事を祈るか……」


そんな事を呟きながら後方の騎士団長へ連絡を伝える。

ほどなく、準備完了の合図が戻ってきた為エドワードはゆっくりと空中へ身を躍らせる。


いくらか時間が過ぎた時、長い呪文を唱え終えたエドワードは魔法陣を起動させた。


 ……その瞬間、世界が白に染まった。


 魔物、魔族の鳴き声や叫び声が、ひどくうるさく聞こえていた荒野はしんと静まり返り、まるで時間が止まったかのようである。


……やがて、徐々に視界が晴れていき、生き残った魔物達の姿が露わになり、先程まで静寂に包まれていた荒野は再び音を取り戻した。


しかし、荒野に広がっている光景は先程の物とは全く異なるものだった。


「う……うぅ……!」

「ギャァ! ギャァ!」

「ギィヤァ!グゥエェ!」

「グァ!グア!」

「ゲヒ!ゲヒッ!」

「フシュルル!」

「ウホォ!ウホッ!」

「ガォオ!ガオ!」

「グルル……」


エドワードが見たところ、様々な魔物たちはまだかなりの数が残っているが、先ほどまでの雲霞のごとき勢いは見る影もない。

また、魔族たちの方も大半が消滅している。


「まぁ、こんなもんですかね?」


「うへぇ……えげつねぇなぁ」


「聖人なんですから、このくらいやらなければ意味がないでしょう? さぁ、みんないきますよ!全軍出撃!」


「はいよぉ!いくぞ小僧ども!俺から離れんなよ!」


「了解です」

「おっしゃあ! いくぜぇ」


こうして魔王討伐の火蓋は切って落とされた。


「さて、まずは手始めに……」


そう言いながら、エドワードは上空からみんなに身体強化をかけ始めた。


「おっと、そういやぁ、さっき言ってたやつはどうすんだ?」


「あれは最後の仕上げに使うんですよ。とりあえず今は目の前の敵を倒しましょう」


「はいよっ!」


「じゃ、私は左翼方面の方行きますんで、右翼をお願いしますね」


「あいよー!」


エドワードは左翼方面から順調に、魔物たちを殲滅している。

時折囲まれて危うい騎士達を救助しつつ、右翼の様子を見守ることも欠かさない。


「ふむ……なかなかやりますね」


エドワードの視線の先には、魔物の大群を相手に奮戦するスカー達の姿があった。


「まぁ、あの程度なら問題ないようですね。では、こちらもはじめますか……」


そう言うと、エドワードは


両手を前に突き出した。すると、前方に直径2mほどの巨大な魔法陣が展開された。


【 顕現せよゴー!  鋼王ハガネオー! 】


エドワードが呪文を唱え終わると同時に魔法陣が美しい光で縁取られ、そこから金属でできた巨人が現れた。


これは、かつてエドワードが師事した召喚勇者が遺した遺産である。


『いいか、エドワード! 異世界ではな、巨大な敵やすごい数の敵なんかを相手にする時は、『光』や『金属』の巨人を召喚して進撃させて戦う風習があるのじゃ! だからいざという時はコイツをよべ!』


と託された。


正直、エドワードはこの師の言葉を全面的に信じたわけではなかったが、この先使う機会が訪れるとも限らないので使ってみたのである。


「おおおお! かっけぇぇぇ!」


「アンタはよそ見してないでちゃんと戦いなさい!」


左翼からも見えたらしい巨人の戦いぶりをみてアドルファスは歓喜しているようだ。


「いいじゃねぇか! たしかアイツ三分しか顕現できねぇんだろ! 今見ないでいつみるんだよ!」


「馬鹿なこと言ってないで、殿下たちから目を離さず戦いなさい!」


……こうしてなんとも、しまらない右翼の戦いは続くのであった。





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