第32話 討伐前日
晴れ渡る空の下、砦では合流したスカーとアーベル、駐屯している兵士達の乱戦訓練が行われていた。
「これで最後だ! どぉりゃあああ」
「まだまだ甘い!」
「うわぁ!」
アドルファスの木剣がスカーの脇腹をとらえる。
「痛ってぇ……」
「そんな事いってる場合かよ! ほら、次々くるぜぇ! 」
「はぁ……はぁ……!」
「おっしゃあ! さぁこい! 」
……そして、長時間の激しい訓練の時間も終わり、参加者みなにいきわたるような広範囲の回復魔法がかけられ
「よし、今日の訓練はここまでにする。各自しっかり体を休めて、明日からの決戦に備えなさい」
「はい!」
エドワードの号令のもと、兵士たちは解散していく。
「さーて、今日のメシはなんだろうなぁ」
心地よい疲れを感じながら、二人はエドワード達の元へと合流しようとした時。
「おーい、アーベル!」
「あっ! 兄さん!」
兄であるアーテウ騎士団長が声を掛けてきた。
「久しぶりだなアーテル……話は聞いてるぞ、母さんたちは元気か?」
「あぁ、相変わらずだよ……それより兄貴こそどうなんだ?激務続きだって話聞いて、父さんも心配してたぜ……」
「まぁ、魔王討伐が終わるまでの辛抱だ……。それにしても、アーベルがまさかバーガ国の王子の従者になるとは……驚いたよ」
「まぁ成り行きというか……色々とあってさ」
「そうか……」
「でも、今は大事な相棒なんだよ」
アーベルは笑顔で言う。
「そうか……王子殿下に対して不敬かもしれんが、友達は大事にしろよ!」
「はい!」
そう言いながら、手を振るスカーの下へ駆けてゆくアーベル。
そんな姿を見ながら、兄であるアーテウは思い出していた。
実はアーベルは幼い頃は体が弱く、寝込む事が多かった。
そんな彼を心配した両親が、少しでも丈夫になるようにと剣術を習わせたのだ。
そして、兄であるアーテウが騎士を目指し家を出た事で自身も後を追う様に、騎士見習いとして騎士団へと足を踏み入れたのだ。
そんな当時を思い出しながら、アーテウは弟の成長を嬉しく思う。
だがそれと同時に、これから弟達を待ち受けている過酷な試練を思い浮かべて、胸を痛めるのだった……。
「生きて戻るんだぞアーベル……」
◆◇◆
夕刻、館へといったん戻ってきた一行は早めの夕食を取るために食堂へと向かった。
「あに……うえ!おかえりなさい!」
たどたどしいながらに、ちゃんと言葉をいえたミルフィーが駆け寄ってきた。
「あぁ、ただいまミルフィーいい子にしていたかい?」
ミルフィーの頭に手をやり軽く撫でてやると、嬉しそうに
「うん! 今日もたくさんおべんきょうした!」
と答える。
「あーーせいじんさまだーー!」
スカー達に少し遅れて食堂へと入ってきたエドワード達をみて ぱああ っと花が咲くような満面の笑顔で抱き着いていく。
「ただ今帰りましたよ、ミルフィー王子」
エドワードもにこやかにミルフィーへと声をかける。
「ミルフィーはホントに聖人様がすきだなぁ」
アーベルはちょっと呆れたように眺めている。
「うん! みるふぃーせいじん様だいすき! あとね、あに……うえ!も、まーさも、みんなもすき!」
「ふふふ……ミルフィー王子は大好きな人が沢山出来ましたね」
「うん!」
「おーい! いい加減腹減ったからメシ食おうぜー……」
そう言いながら、テーブルにペショっと突っ伏しているアドルファス。
「アンタはいい歳してまったく……少しくらい我慢できないんですか?」
ブツブツ言いながらも食事をテーブルへと用意していくエドワード。
「相変わらず、この浮かんでる皿の群れが飛んでくるの、意味わかんねぇ……」
コクコクと同意するスカーと、引きつった表情のまま椅子に座るアーベル。
「さぁ、頂きましょうね」
こうして、魔王討伐前【最後】の晩餐をみなで楽しむのであった。
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