第31話 国王と兄弟の再会

 バーガ国王の私室にほど近い場所にある、プライベートな応接室では、バーガ国王とミーツ王子、そしてエドワードとスカー王太子がテーブルを挟んで向き合っていた。


「久しぶりだなスカーよ……なにやら逞しくなって、顔つきまで別人のようではないか」


国王は嬉しそうに久しぶりにあったスカーを見ていた。


「はい、これも聖人様と勇者アドルファス様のご指導のおかげでございます」


スカーは少し照れたように国王へ頭を下げたあと、真剣な表情で


「父上……これまでの愚かな振る舞いで、王室の威信を傷つけた事……国を窮地に陥れかねなかった事……悔やんでおります……ですので、私はその責任を負い王太子の位を辞したいと考えているのです、どうかお許しいただけませんか?」


「は? 兄上一体どうしてっ!?」


「ミーツ……お前には本当に申し訳ないと思ってはいる……だがそれ以上に私はこのバーガ王国の一王族として、魔王討伐に心置きなく向かいたいのだ……そのためには王太子の位を持ったまま行くわけにないかない事はわかるだろう?」


「そんなっ……それじゃあ兄上はもう帰ってこないみたいじゃないか……」


ミーツ王子はボロボロと涙を流しながら俯いてしまう。


「流石に生きて帰ってくるつもりだけど、万が一という事もちゃんと考えておかないとね」


スカーはミーツへ微笑みながら答える。


「……なら、一時的に僕が王太子位を預かるだけでもいいじゃないですか!」


「本当はそれがいいのかもしれない……だけど、私は自分自身が王に向いていない事を良く分かってしまったんだよ……」


「どういうことです?」


「私が今までやってきたことを思い出して見てくれ……誰かの言葉を鵜呑みにして、きちんと調べもせずに暴挙でるような無能は王にふさわしくないだろう?」


「そんなのこれから気を付ければ……」


「王族にとっては失態は致命的だ。事を起こす前だったらまだ取り返しもついたけど、もう遅いんだよ」


スカーも苦い顔で下を向く。


「しかも今回は王国内だけで済まされる問題じゃない……『魔王討伐の希望である聖人様に何度も無礼を働いた』っていう事実は、他国との連合軍にどれだけの影響があるかお前も理解しているだろう?」


「兄上……」


「それでも聖人様は私に『勇者として魔王討伐に参加する』という失態を取り戻すチャンスを下さった。だから、この馬鹿な兄を恨んでくれてもいい……どうか、お前がこの国の王になって欲しい……」


スカーは深々と頭を下げる、その姿を見ながらミーツはため息を一つ吐き


「……分かりました。兄上がそこまで言うのならば、今は何も言いません。ただ、これだけは約束してください。必ず無事に戻って来ると……そして帰ってきたら、僕の文句をちゃんと聞いてくださいね!」


「あぁ、ありがとう。約束する」


二人は泣き笑いのような顔でお互いを見ていた。

そんな二人を涙をこらえながら見守る国王。


「さて、ではそろそろ失礼させていただきます、バーガ国王とはまた後でお話を」


「連合軍の件についてでしょうか? 分かりました、時間を空けておきますぞ」


「えぇ、よろしくお願いします」


エドワードはそう言うと、スカーと二人でスッ姿を消した。


「さて、ミーツよ……これから忙しくなるぞ!」


「はい父上! 僕も兄上に負けていられません! 頑張ります!」


と気合を入れているミーツを微笑ましそうに見る国王であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る