第30話 連携訓練3

 勝利の興奮も薄れてくると、疲れが澱のように体を重くする。

動くのもおっくうで、座り込んでいた二人の前に天井から スコン! と立札が降ってきて地面に刺さった。


「んん? 今度は何だよ……」


うんざりした顔で立札を見に行くアーベル。


「おい、スカー! 見てみろよ! 次の扉の向こうで休憩できるらしいぞ」


「それはいい……さっそく行こうか……」


疲れと安心感からか、鈍い動きでノロノロと歩き出すスカー、その背中には哀愁すら漂っていた。


「なぁ、アーベル……」


「どうした?スカー」


「私たち……こんな感じでこの先大丈夫なのかな……」


「……まぁ、なんとかなるんじゃねぇかな……きっと……」


二人は、扉を開けて中へと入っていった。


部屋の中には小奇麗な寝台が二つ、テーブルには温かな食事とメモが乗っている。


「なになに……『ここは安全地帯です、横の部屋はトイレと浴室になっていますので着替えもそこで、奥の赤い扉が出口です。一度出たら戻れませんのでお気をつけて』ぇ?……もう突っ込む気も起きねぇ……俺もうメシ食って寝たい……」


「同感だ……だが汚れを落としてからじゃないと寝台が土と血で汚れてしまうぞ……」


「あーメンドクセェけど、しゃーねぇか……俺、先行ってくるわ」


「あぁ、私は装備のメンテナンスをしているから、ゆっくり行ってきてくれ」


こうして二人は、身支度を終え食事をとり寝台へ横になる。


「……なぁ、アーベル」


「…………んん……どうしたぁ……」


少々寝ぼけた声で答えるアーベル。


「ここに来る前に、聖人様とお師匠様の二人と戦った時……気が付いたか?」


「あぁ? なにがだよ……」


「あのお二人、なんの会話もなく意思疎通してたんだ……相手に目線を送っただけだったり……お互いに何がしたいのか即理解してたようだった……」


「まじかよ……そういやあの二人どういう関係なんだ……?」


「お師匠様にお聞きしたところ、一応従兄弟にあたるのだそうだ……だが、実際はただの幼馴染の腐れ縁だとか笑ってたけど」


「へぇ……ならあのオッサン達、子供の頃からずっと一緒ってこったろ? そりゃあ何十年も見てりゃあ、お互い何考えてるのか手に取るようにわかるんじゃねぇか?」


「そうだな……私達があの域に達するまで、何年かかるのかなって……」


「……お前はバカだなぁ」


「えっ?」


「難しく考えすぎなんだよ、もっとシンプルにいこうぜ!」


「そんな事言ったって……」


「そんなに難しいことは一つもないだろ!俺たちの目標はただひとつ!『二人で強くなる』それだけだ!」


「……確かに、それは間違いないな」


「だろ?なら話は簡単だ!明日の為にさっさと寝ようぜ!」


「あぁ、お休みアーベル……」


こうして若者たちの1日目は瞬く間に過ぎて行った。


……それから、順調とはいかず苦戦を強いられることや重傷を負い動けなくなることもあったが、二人は心折れずにひたすら自らを研ぎあげた刃とするがごとく鍛え上げる事に専念した。

 一体どれだけの時間をここで過ごしただろうか……目の前の魔物との戦闘を終えた瞬間、突如金色に光る扉が現れた。


「おい、スカー!」


「あぁ、多分これが出口だ……帰ろうアーベル!」


「あぁ……やっと終わった……いや……これから始まるんだな、『魔王討伐が』!」


「あぁ、必ずやり遂げよう!」


そう言いながら二人は扉の向こうへと消えてゆくのであった。



◆◇◆


「二人ともよく帰ってきました。……いい顔つきになりましたね」


エドワードは満足そうに二人を見る。


「さーて、ここから最終試験だぜぇお二人さん! ……といっても俺たちも人でなしじゃねぇから、一撃だ。俺たちのどちらかに一撃入れられたら合格でいいぜ」


「……やるぞスカー!」


「分かった……」


スカーは素早くエドワードへと戦斧を下段から摺り上げるように薙ぐ。

が、しかしその攻撃は、空を切った。


「ふむ、なかなかいい動きですね。ですが、甘いです。」


「なっ!?」


エドワードは、半歩下がるだけで攻撃をかわすと、そのままの流れでカウンターを放とうとする。

だが、攻撃がスカーへ届く直前にアーベルが飛び出していく。


「させねぇっ」


だがその剣戟はエドワードへ届く前に、彼に受け止められてしまった。


「おっと、俺の相手もしてくれや」


そういうと、アドルファスは木剣で斬りかかりアーベルはそれを受け止めるだけで精一杯といった状況になる。


「……どうしたぁ?こんなもんかよ?」


「クソッ……舐めんじゃねえぇ!」


アーベルは渾身の力を込めて打ち込むが、あっさりと弾かれてしまう。


「終わりだぜ……そらよっとぉ!」


そして強烈な一撃が叩き込まれる寸前


「今だスカー!」


その声に合わせるように戦斧を光らせ、恐ろしい速さでアドルファスの背後へ肉薄し、一撃を加えようと戦斧を横なぎに振りぬいた。


「おわぁ!あぶねーな、この野郎!」


だが間一髪のところでアドルファスが飛びのいたため、直撃することはなかった。


「チィ……外しましたか」


「……いえ、勝負は貴方方の勝ちですよ。スカー殿下、アーベル」


「え?」


その言葉に動きを止めてしまう二人。


「ほら、御覧なさい。あの男は元が山賊みたいですから分かりにくいでしょうが、頬に傷が出来てますよ」


「あぁん? まじかよ……」


アドルファスが頬をぬぐうと確かにちょっぴり傷がついていた。


「てことは……」


「はい。最終試験も合格です! よく頑張りましたね」


「おっしゃあああ! やったぜスカー!」


「うん、アーベルのお陰だよ」


「いや、俺たちの実力だっての!」


「そっか……そうだね」


そう言いながら涙をこぼすスカー。


「おい泣くなよ!」


「泣いてない……目にゴミが入っただけ」


「……あぁ、そうかい」


「……さぁ二人とも、これからが大変ですよ。スカー殿下は三日後に一度王国へと向かい、バーガ国王へ謁見しますからそのつもりでいてください。アーベルは、アドルファスと共に最終調整もかねて砦へお願いします」


「はい!」

「わかった!」


こうして、魔王討伐へ向けての最後の準備が始まった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

重傷を負ったり気絶した場合、部屋の仕様で休憩部屋に搬送され治療されますので安心。

でも部屋からでると、即また襲われます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る