第27話 平和な館の日常
なんだかんだで戻ってきた前庭で、スカーは恐ろしい表情をしたエドワードが、木につるした簀巻きアーベルを見ながらお説教をしているのを、見なかったことにして鍛錬を始めようとした。
そこへアドルファスがやってきて
「今日は趣向を変えてゲストに参戦してもらう」
などと言い出した。
「ゲスト?」
「あぁ、とりあえずアーベルぼくちゃんは放置で、お前は斧の使い方からだな」
「斧……というともしや?」
「あぁ、キントキを呼ぶぞ」
「おう! 来てやったぞ!」
地面に水で書かれた召喚陣から、するっと出てきたキントキ。
「やっぱり……」
「あぁん?なんか文句あんのか?」
と、キントキがジト目でスカーを見る。
「いえ、別に……」
「まぁいい、それより始めるぞ」
「はい!」
「まずは斧を構えてみろ」
「はい」
こうしてスカーの斧の訓練は始まった。
◆◇◆
……エドワードにこってり絞られてゲッソリしたアーベルは、鍛錬を始めるべくトボトボと歩き始めていた。
「おう! アーベルぼくちゃんはこっちだ」
そういいながらニヤつくアドルファスをみてアーベルはため息をつく。
「はぁ……(またかよ)」
「お? さすがに脊髄反射で噛みつくのは辞めたみてぇだなぁ?」
「……」
アーベルはアドルファスに話しかけられながら、ともに森の奥へと歩いていた。
「よし、じゃあ鍛錬はじめるとすっか……あそこに何か見えるか?」
「あぁ?どれだよ?」
「ほらあれだぜ、あの黒い影だ、ありゃあ魔物の類いだ」
「は?」
「この森にはあんなもんが出るんだよ」
「まじかよ!?」
「そうだ、しかもかなりやばいやつだぜ?」
と、しれっと嘘を吐くアドルファス。
そもそもここは勇者の訓練場(笑)なのでそんな危険な魔物などいない。
「こ、この森そんな危険な場所だったのかよ……」
「だから俺らが退治するんだ、行くぞ!」
「えっちょっと待てって……おい!」
そう言いながらアーベルはアドルファスのあとを追いかけるのであった。
◆◇◆
食堂の片づけを終えたエドワードが、執務室の方へとむかっていると
「せいじんさまー」
と、たたたっと走ってきたミルフィーが抱き着いた。
「おやミルフィー王子、お勉強はおわったのですか?」
そういいながらエドワードは、ミルフィーの頭を撫でている。
「うん! ごほんよんでもらったの!」
「それは良かったですねぇ」
ニコニコと笑顔をむけていると、マーサが慌ててやってくる。
「ミルフィー様、お一人で急にいなくなってはいけませんよ……マーサはとても心配しました」
マーサもミルフィーの後を追ってやってきた。
マーサは少しだけ険しい表情でミルフィーを見つめる。
しかし、ミルフィーはエドワードの腰に手を回しギュッとつかまり、満面の笑みを浮かべてエドワードを見ている。
「おやおや……ミルフィー王子、マーサに心配を掛けてはいけませんよ」
「ううう……ごめんなさい」
そういいながらも、まだエドワードから離れようとしない。
そんな様子をみて、エドワードはクスっと笑う。
「きちんと『ごめんなさい』が言えたことは大変良くできました、でも謝る相手は私ではないでしょう? ミルフィー王子が悲しくさせてしまったのは、マーサなのですからちゃんとマーサに謝りましょうね?」
エドワードの言葉を聞いた瞬間、バッと顔を上げたミルフィーが
涙目でマーサの顔を見る。
「マーサごめんなさい」
「はいよくできました、ちゃんと言えたミルフィー王子はえらいですね」
エドワードに言われたとおりに、マーサに素直に謝罪できたミルフィーを見て微笑むエドワード。
そしてそんな2人の様子を、優しい目で見守るマーサ。
こうして平和な館の日常が過ぎていくのであった。
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