第17話 兄弟

今日も勇者の修行場(笑)ではスカーがアドルファスにボコられていた。


「踏み込みが甘ぇ! もっと早くしろ」


「はい!」


「そんなんじゃ魔王は倒せねぇぞ!」


「はい!」


「体幹がぶれてんぞ! もっと腰をおとせ!」


「ハイッ!……はぁ……はぁ……」


「よし、次は素振り1000回だ!」


「はいっ!」


「がんばれよ!」


「はぃ……うぐぅ……」


……そして夜になり、やっとのことで本日の修行を終えたスカーを待ち構えていたのは、すやすやと寝息を立てるミルフィー王子を抱えたエドワードであった。


「戻りましたか……まぁまぁ順調そうですね?」


「せ……聖人様……」


「あたりめぇじゃねぇか、誰が稽古つけてるとおもってんだよ」


と得意げに語るアドルファス。


「ところで、今度は育児なんかはじめやがったのかぁ? どこで拾って来たんだよ聖人様よ?」


ニヤリと笑うアドルファスを無視してエドワードはスカーへと声をかける。


「スカー殿下、この子は貴方の弟のミルフィー王子ですよ、まぁその話はあとにしましょう。 とりあえず今日から野営は中止で【館】にもどりますよ」


そう言うとエドワードは、軽く地面を足で叩く。

次の瞬間、スカー達はどことも知れぬ館の入り口に立っていた。


「こ……ここは!」


「慌てずともここは安全です、あなたの部屋も用意してありますので食事の用意をしておきますから、まずは汗を流して着替えていらっしゃい」


エドワードは指先から小さい光を浮かべ、


「この光についていけば貴方の部屋がありますから。お風呂はこちらの扉の向こうになります。服はこのクローゼットに入っていますから。ではごゆっくり」


というと、光の玉はふわっと浮かび上がり、廊下の奥へと進んでいく。


「え? あの……」


話の流れに頭が付いていかず困惑するスカー。


「なんだ? さっさといってこいよ、今日はまともな飯が食えるぜ!」


そんなスカーを放置してアドルファスはウキウキとしながら、さっさと浴場へ移動するのであった。


◆◇◆


「まずは、頂きましょう。冷めては美味しくありませんからね」


食堂へやってきたスカーへエドワードが語りかける。


席に着いたスカーは、恐る恐る料理を口に運んでゆく。


「う……うまい!!」


野営でろくな食事もとれなかったスカーは、暖かい料理を夢中で口に運びだす。


「お口に合ったようで良かったです」


とエドワードは微笑む。


「おいエド、これおかわり」


アドルファスが皿を指さし催促する。


「アンタはまったく……」


そう言いながらも、パチリと指を慣らして料理を出してやるエドワード。


「ま、魔法で料理を作ってるのです……?」


二人のやり取りをみて、思わずスカーが驚いて問いかける。


「いえ、これは作りおきをお願いしてる場所から転送してきているだけですよ」


エドワードはさらりと答える。


「……そんな事ができるんですか?」


「えぇ、さすがに私も凝った料理は作れませんので」


「……はぁ……そうなんですか……」


とスカーは呆気にとられるのであった。


「さて……食事も粗方終わったようですし、少し話をしましょうか」


「はー!久しぶりにまともな飯にありついたぜ……。んで? 【城】のほうは片付いたのかよ?」


ワインをガブガブと飲みながらアドルファスは問いかける。


「ユイカさんは、元の世界にお帰りいただきました」


「ユイカ……そうですか、彼女は無事に帰れたんですね」


スカーは顔をほころばせた。


「えぇ、そちらは安心していただいて大丈夫ですよ。 ただ後宮のほうがキナ臭い動きをしているようですね」


「後宮……」


あまりいい思い出がないのか、スカーは眉間にしわを寄せて黙り込む。


「まぁ、そちらは私の方でなんとかしますよ。それより、ミルフィー王子の事ですが」


「さきほど弟だと仰っていたミルフィーとは?」


「最近亡くなった南の方第四夫人のお子様です」


「あぁ……さっきの子供は南の方第四夫人の子供なのですか」


「えぇ……そのミルフィー王子は後宮で日常的に虐待を受けていたようです」


「なんですって……! 国王の子である王子を虐待とは…… 一体後宮はどうなってるんだ……」


怒りに震えている。


「まぁ、そういうわけで、これからしばらくはスカー殿下にあの子の面倒を見てもらいます」


「は? え? どういうことですか?」


エドワードの言葉にスカーは混乱している。


「本当はお父君であるバーガ国王が、責任を持ってミルフィー王子の面倒見なくてはいけないんですよ? ですが、バーガ国王はご存知のように魔王討伐の準備に忙殺されていますから、息子であり兄である貴方がしっかり面倒を見てあげて下さい」


「私が……弟の世話をですか!?」


スカーは愕然とした表情を浮かべる。


「そうです。それに、これはある意味勇者として大きく成長するチャンスですよ」


「え? どういうことです?」


スカーは首を傾げた。


「勇者とは人々を救い希望を与える存在です。つまり、困っている人を救う事で、その希望を糧にして力を得るのです! そんな存在が、弟一人救えなくてどうしますか」


「うっ……確かにその通りです……」


スカーは言葉を失う。


「ですからこの世界を救うためにも、しっかりと役目を果たしてくださいね?」


エドワードはスカーの肩に手を置き、優しく語りかけるのであった。


「……わかりました! 弟の事は、このスカーにお任せください!」


スカーは力強く宣言する。


「おーおー、頼もしいねぇ」


そんな二人の様子を見て、アドルファスがニヤニヤしながら言うのであった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

エドワード

「やはり根が単純おばかさんだと扱いやすいですね」


※面倒を見ろとはいいましたが、さすがに育児をスカーに丸投げはしませんのでご安心ください。


※書き忘れていた補足


勇者の修行場(笑)は、勇者だったマサタカお爺ちゃんが妻の大魔導士に作ってもらった異空間施設遊び場です。

現在はアドルファスが貰っています。


子供だったアドルファス達の修行をするために使われていました。(時間は止められませんが、ゆっくりにすることはできます)

 あと岩に刺さった剣は許可のない人間には抜けないようにしたり、自由に光らせたり音を出したりなど色々設定できますw

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