踊る肉
夕暮れいつもの散歩道、ふと店と店の間にある細い路地を覗きこんでみたところ、赤黒い肉の塊が踊っていた。
身長と体格から察するに成人男子といったところか。全身の皮が剥がれた筋肉標本は変則的なステップを刻む。南米あたりの民俗音楽を思わせるリズム。
背後では普段通りに自動車が流れ去っていく。踊る肉のこともそして私のこともまるで気にしていない。
第三者的にその状況に置かれてどのくらいの時間がたったのかわからない、私は脳が警告を発していることに気づいた。
これは見てはいけないものだ。
それが私の方に向けていたのは背中だった。のっぺりとした後頭部に躍動する僧帽筋からわかった。
踊る肉はゆっくりと振り返る。あくまで踊りながら、聞こえてこない音楽に合わせて。急ぐことはしない。
その正面はどうなっているのだろうか? 眼球はそこに残っているのだろうか? あるいは空洞が私を見つめるのだろうか?
ぴしゃり。勢いよく右の太ももを叩いた。活を入れる。そのまま走り出していた。ただ走ることそれだけに集中する。
赤い陽の中、見づらい赤色信号を前にして私はようやく立ち止まった。
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