計算機
博士は計算機を作った。
はじめは小さなものだったが付け足し付け足ししてくうちに家いっぱいに広がるほどになった。
しかたがないので博士は地下を掘り下げた。すると偶然に空洞にぶつかって、それが自然にできたのか何かの目的で作られたものかまるでわからなかったが、ちょうどよかったのでそのままそれを利用することにした。
とにかく計算機はずいぶんと巨大になって、それと博士はその置き場所に困らなくなったということだ。
ある時、博士は自身の生活費と計算機の改造費とそれから普通に欲しいものがあったので、1億円手に入ったらいいなと考えた。
どうすれば1億円を入手できるのか計算機に尋ねたところ、計算機は「次の満月の深夜零時に街の交差点の真ん中に立っていると木枯らしが吹いてきてその結果1億円が得られます」と答えた。
博士は自分の作った計算機を信じていたのでその指示通りに動くことにした。
すると博士の前に音もたてずにするするとリムジンがやってきて、中からサングラスに黒のスーツでかためた大男が現れると、博士に銀色のアタッシュケースをわたしてきた。
謎の大男が「Thank you」と言ったので博士はよくわからないまま「You're welcome」と返しておいた。大男はそれきり表情も変えずにリムジンに戻ると去っていった。
家に帰って確かめたところアタッシュケースの中にはぴったり1億円が入っていた。
博士は1億円手に入ったことがうれしかったし、それよりなにより計算機の計算通りにことが運んだことがうれしかった。
このすばらしい計算機を使っていったい何ができるのだろうかと博士は考えた。
計算機にそれを訊いてもよかったのだけれど、博士自身も計算機を作るぐらいだったから考えることが苦手でも嫌いでもなく、自分で考えた。
3日ほどかけて考えた結果、博士は計算機を使って世界を平和にするための組織を作ることにした。
それは難しいことでも何でもなかった。目標を計算機に入力したらあとはその出力された指示通りに動けばいいだけだったから。
山奥でポップコーンパーティーを開いたり、ネットで本当にただの一般人に粘着したりとよくわからない指示もあったがその通りに実行した。
組織はみるみるうちに大きくなって世界中をおおいつくすようになった。何度か組織をつぶそうという動きはあったがそれも事前に察知できたので早期にその芽を摘むことができた。
そうしているうちに博士は寿命を迎えた。
死ぬ間際になって自分のやってきたことが本当に平和をもたらしたのか博士にはよくわからなくて計算機に質問した。計算機は「まだ結果は出ていません」と返答した。
仕方がなかったので博士はこれから先も計算機に従って組織が動くようにした。博士が息を引き取って計算機の存在を知るものはいなくなった。
今も組織は計算機の指示のもと動いている。
けれども誰もその結果を検証していないから本当にそれが目標に向かって進んでいるのか知らない。
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