あなたとわたしとその他の人類

 さあ書こうという段になってピンポンとインターフォンが鳴ったからでてみれば悪い魔女で五百万くれると言ったので喜んでもらったところ代わりに今まさに書こうとしていたことを奪われてしまった。一応それでもうんうんうなったり意味なく部屋の中を歩き回ったりして書くことをひねり出そうとしたがどうにもならなくて仕方がないから悪い魔女から書くことを取り返しに外に出ることにした。

 すると家の門のところに立っていたのはあなたであなたはいやいやそんなわざわざ取り返すほどのものじゃないじゃないですかと言った。わたしはその言葉にずいぶんとむかついたのであなたを殴り飛ばすことにしたが日頃の運動不足がたたって逆に殴り飛ばされてしまった。けれどもそうして殴り飛ばしてしまったことで罪悪感でも感じたのかもしれないあなたはわたしが悪い魔女から書くことを取り戻すのに協力してくれることになった。やれやれと言いながらあなたは私のうでをつかんでぐるぐると振り回すとそのまま遠くまでぶん投げた。わたしの体は勢いに乗って空を飛んでいくとちょうど魔女の住んでいる家に落ちていった。頭から落ちていったわたしの先にはちょうど魔女がいてそのぶつかった衝撃でわたしと悪い魔女の体はぐちゃぐちゃに砕けてしまった。遠くのほうを飛んでいたカラスがそれを見ていたのか見ていなかったのかよくしらないけれどふんを一つ落としてどこかへ行った。

 悪い魔女の隣の家には超天才医師が住んでいてあまりに超天才だったから普通の手術をするのに飽きていた。つまんないなあつまんないなあとつぶやいていたところ隣の家からがっちゃんと大きな音が聞こえてきてなんだかおもしろそうだと思えたので魔女の家に断りなしに入っていった。がっちゃんと音の聞こえたのは二階の方だったからそこに行ってみればぐちゃぐちゃになったわたしと悪い魔女とそれからカラスのふんが落ちていた。それを見た超天才医師は非常に喜んで跳ね回って踊り狂って小指をちょっとぶつけたけどやっぱりそれでも喜んで跳ね回った。ひとしきり跳ね回ってからそら大手術だと魔女の家の台所に飛び込むと手当たり次第に使えそうなものを持ってきて歌を歌いながら二人分の人間を作り直す作業を始めた。といっても超天才医師はもともとの二人のことをよく知らなかったのでまあひとまず二人分の人間があまりなしにできあがればいいやぐらいの感じだった。

 三日三晩かかって一仕事終えた医師が手も洗わずにウイスキーを飲んでいたところごそごそと二人の人間が起き上がってきてそうしてその二人はどちらもわたしと悪い魔女とは違ったものだったがそんなことはどうでもよくてウイスキーのことは二人とも好きだったからそのまま三人でぐびぐびとウイスキーを飲みまわした。そうして超天才医師は超天才医師の家に帰ったが元わたしと元悪い魔女はたがいにまじりあってどちらがどちらというわけでもなかったから適当にじゃんけんをして住む家を決めてそうしてじゃんけんに負けた新しいわたしはこの家に帰ってきてこの話を書き終えた。

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