骨がいた

 骨がいた。骨には右腕がなかった。くたびれた老人が現れた。老人には左目がなかった。その老人は骨に言った。東を目指せ。骨はその提案を拒んだ。すると老人は骨の左足を奪って東に逃げた。骨は旅にでることにした。しかし老人の思惑に乗るのは気に食わなかった。西へと向かうことにした。運命が交差するものであるならばいずれそれでもでくわすはずだ。

 ぴょんこぴょんこと歩いていったところアリが行列を作っていた。骨がそれらを踏み潰そうとしたところアリが言った。どうかぼくたちをそっとしておいてください。いつか必ずお返しはしますから。骨は行列を飛び越えてさらに西へと向かった。カエルがぐえぐえ鳴いていた。水がなくてひからびそうだという。骨はしょんべんをかけてやることにした。カエルは喜んでげおげおと大合唱をした。

 物語はなおもつづく。骨の前に今度現れたのは鹿だった。鹿は骨にむかって突進すると骨をばりばりと食べてしまった。生命としてのかたちをなくした骨の物語はこれでおしまいである。かわりに鹿が骨の物語を受け継ぐことになった。鹿は左目がない老人を捕まえるべく東へと向かった。

 カエルたちが鹿の前にたちはだかる。お前は我らが恩人たる骨を食べた。ここを通すわけにはいかない。鹿はばりばりとカエルを食べた。つづいてアリがたちふさがる。鹿はぺろりとアリをたいらげた。そうして三日三晩歩きつづけてようやく鹿は老人に追いついた。

 右腕を返せ、それは私のものだ。老人はむにゃむにゃと呪文をつぶやく。鹿はそれに構わず老人を噛み砕いて飲み込んだ。鹿の体内において骨の存在が再構成する。そこに不純物としてアリとカエルと老人の体が混じった。キメラは鹿を内側から食い破った。世界がくるりと裏返る。

 新しい骨はその場所で再び畑を作ることにした。アリとカエルと鹿と老人をとりこんで裏返った骨の存在はすでに人間から遠いものでそれのたがやした大地は畑のような秩序だったものになるはずもなく一方でまっとうな自然からも離れた異形が出現した。

 異形は周辺を侵食しその領域を拡大する。辺縁にて肉は生まれた。それが人の間に生まれたものだったのかあるいは変質した大地から生じたものだったのか今となってはわからない。王は骨を破壊せよと肉に命じた。けれども肉はそのうちに骨の性質を宿していた。肉は骨ではなく王を破壊した。

 ただしその行動に計画性はなく肉が王にとってかわるなどということは起こらずに肉は軍から追われる身となった。それは重要なことではない。肉は強かったし一人だった。追いついたものをその都度殺せばそれですんだ。多少わずらわしいと思わなくもなかったがわざわざ出向いて本体を叩こうと考えるほどではなかった。そうこうするうちにもちろん異形の大地は拡大をつづける。

 肉は夢を見た。

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