野球篇

 九回裏で二死満塁で三点差。ここで一発ホームランがでれば逆転サヨナラというシチュエーション。ピッチャーは桜井彰一郎、右投げ、速い球とかそういうのが得意。わかりやすい。対するバッターは小柳満、左打ち、打順は四番。どちらもここが正念場。ちなみに右投げと左打ち、どちらが有利なのかは知らない。知ってる人は知ってる人で、何かの意味を見出せばいいと思う。そして、もっと肝心なことを言っていなかった。今は甲子園大会決勝で、つまりはこの試合に勝ったほうが優勝ということになる。負けたら準優勝ということになっている。どっちも喜んでいいと思う。

 桜井は大きく振りかぶって、どうこうあれこれのモーションがあった後、足元の土が抉れて小さな粒が舞い上がったりして、最終的には白球を投げた。牽制球ぐらいなら知っているから、その話をしてもいいが、面倒なのでやらない。普通に投げた、だからキャッチャーのほうに。野球ボールは確か話に聞いたところによると、ストレートの場合は結構回転しているそうで、つまりは今も風をうならせている。それがよくある物理法則にのっとって運動していって、キャッチャーとバッター方向に次第に近づいてゆく。

 これまでのはピッチャー桜井から見た話で、今度はバッター、えーと誰だったか小柳のほうから見ると、なんかあれこれピッチャーが動いたかと思うと、白くて丸いのが飛んできたということになる。わりと速くてびっくりしているのだけれど、そういうのはおくびにも出さない小柳。迫り来る白いのを真直ぐ見つめて、バットの細いところを強く握りしめる。現在のカウントはツーストライク、スリーボール、言い方が変わったんだったか、うろ覚えだけれど、ストライクツー、ボールスリー、そんなん? とにかくそういうの。ぐっと緊張感が増した。

 小柳ははじめからストレートに的を絞っていたわけで、このフルカウント状況、心のほうもすげー高まっていた。白球がちゃんと見えているし、それ以外は見えないといった感じ。そんなわけで本当にもう、狙ってたストレートが来たときは、嬉しくてたまらなかった。勝利をほとんど確信した。なんかやれる気がした。その先取りの喜びを誰かに伝えたくてたまらなかった。ので、手近にいた人に小柳は話しかけた。

 いきなり話しかけられてキャッチャーの二階堂は、んあっとまのぬけた声を出した。だいたいの人はそうなると思う。仕方がない。だって今まさに最後の最後の局面で、最後の最後の最後がぎりぎりのところまで接近しているのだから。やったやったよ、ちょ、見た見た? すごくね? ひゅーいえーやっほー! いやマジで俺の思ったとおりどんぴしゃだよどんぴ。対して二階堂、そうゆう虚をつかれたときというのはときというので、それに応じた適当な言葉がでてくるものである。はあ、そうですか、それはよかったですね。小柳はにかりと笑う。二階堂はその笑顔にどきりとした、胸がしめつけられた、恋がはじまった。

 間違えた。言葉で書いてて勘違いしたのだけれど、実際のそのピッチャーが投げてバッターがからぶってキャッチャーがボールを取るまでの時間というのは、めたくそに短い。もうしゅっでぱっという具合らしい。だから勿論こんなやりとりをする時間はないのである。故に二階堂はここで恋に落ちることができないという結論になる。よって小柳と二階堂の間に生まれるはずだった、恋愛感情は現時点では一旦消去し、幻想でしかないとして扱わざるをえない。要するにそうなってくると驚いたことに、小柳と二階堂の間に愛が育まれるための起点は生じなかったのだ、なんと!

 そういうのがなんだかんだあって戦争の火種になったりする。とかなんとかいう方向で書こうと思っていたら、なんか面倒になってきた。もう面倒になってきたのである。だってこの段落と前の段落の間を書くのに、ネットぐるぐるまわったりしたもんよ。それって明らかに飽きた証拠じゃんかよ。これはとりあえず小説という体になっているのだけれども、特別に何かを設定してはいない。物語とかそういうのどうでもいいじゃんかと思ったので、思いついた端から書いてくことにしたのである。んではじめにぽっと浮かんだのが二死満塁だったので。大して野球に詳しくないくせに。せいぜいドカベンを読んだくらいじゃないか。いやドカベンは偉大な作品だよ。でもそれだけで野球について云々語れると思ったら大間違いだ。知ってる。知ってるけどやってみようとした。やっぱダメだった。

 てかこんなん書いてる間に、ぐんぐんと小説らしさが下がってきた。なにがいけないのかというのはここまでやってきた中で、だいたいわかった。作者が出てくるといけない。すなわち私。いくら調子にのって小説書いて、そのことがちょっと照れるからってちゃちゃをいれちゃよくない。黙ってよう。さてさて。ま、これで終わりなんだけども。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る