果物

 とっさに喉元を押さえたのは人間に備わっている反射的な行動でしかなく私の意志とはあまり関係のないものだ。行動の原因を単純に規定するならばかゆみでそれがなぜ現れたのかはおそらく昼前に通りでかじりついた果物のせいだった。異国の地に降りた当初私は警戒心を抱いていたがその長つづきしない過剰さが現在の気のゆるみを招いた。内部に侵入した異物を排除するのは当然の反応でむしろそれを止めようとする方が不自然である。論理と非論理がうまくかみ合わないまま外部から挿入されたその異物を自分が受け入れようとしていることに私は気づいた。手は喉元を押さえたままで内側をはい回るかゆみだけが一層強くなっていく。いったい誰が命令を出しているのだろうか? 私は胃の中で果物の溶けるを眺めた。

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