昆布

 洞窟をくだっていくと小さな女の子がいて自分は昆布だといった。しかしどう見ても昆布には見えなかったので君は昆布ではないと言ったところいいえ私は昆布だとくりかえし言われた。しかたがないので彼女を背負って地上に戻ることになった。途中海の波が足元によせてきては帰っていったがさらわれないように踏ん張ったのでなんとかなった。そうして暗くて長い洞窟を抜けた先には街が広がっていたからそこを歩いている人たちに今背負っている小さな女の子は昆布であるかそうでないか問いかけた。彼らはみなその女の子は昆布ではないと答えたがそれにたいしていちいち女の子は自分は昆布であると強弁した。

 警官がやってきて私に手錠をかけた。小さな女の子は私から引き離されて暗い所へと帰っていった。私はそれよりももっと暗くて狭いところに押し込められて出られなくなった。どれぐらいたったかわからないぐらいの時間が過ぎたころにちろちろと私の目の前に一匹の蛇が現れた。蛇は命の半分をもらってくれるならお前を逃がしてやろうと言ったので私はそんなものは欲しくなかったし逃げたくもなかったのでその誘いを断った。そういうことならばまあそれもいいだろうと言って蛇は私を拘束するものすべてを破壊するとまた巣穴へと帰っていった。

 久しぶりと思える地上には何もなかった。荒れ野にただひとつぽつんと高い柱が立っていた。行く当てもないのでそちらにむかって歩を進めていった。一歩ごとに体が焼けてすりへっていくのがわかった。その高い柱のところにたどりつくころには私の体はほとんど残っていなかった。高い柱に触れるとその残っていた部分も散り散りになって風に乗ってどこかへ消えてしまった。形をなくしたが私が私だったころとさほど変わった感覚ではなかったのでそのまま放置しておくことにした。高い柱は中ほどでぽきりと折れて上半分は斜めに地面へと倒れこんだ。

 地下の奥底で眠っていた小さな女の子はその音で目を覚ました。大きく伸びをしてから特に寝る前と何も変わっていないことに気づいた。足元を流れていた水を手ですくうとごくごくと飲み干した。のどがかわいていたから。女の子は横になると再び眠ることにした。次に目覚めたときには何かがわかっていればおもしろいと思いながら。そんなに期待してはいなかったけど。眠ってしまうまでに長い時間はかからなくてその足元を変わらずさらさらと水が流れていく。それはひどく冷たいのだろうか。

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