ツルが舞うブローチ
「どのようなジュエリーを作っているのですか」
ムーンが興味深そうに聞いてくる。
宝石神殿の地下1階で、朝からスフェーンを使ったジュエリーを作っていた。となりにはムーンがいて、コパリュスとスターは庭に出ている。
「ツルという鳥を題材にしたブローチよ。本来のツルは白色だけれど、スフェーンのかがやきが日の光に反射しているツルを想定してみた」
スフェーンはディスパーションと呼ばれる光の分散が、ダイヤモンドよりも強いと言われている。研磨がむずかしい宝石だけれど、それに見合うかがやきがあった。
「翼を広げた鳥で大空を飛んでいる姿が目に浮かびます。地金はゴールドですか」
「その通りよ。小さいルースでツルの形を作りたかったから、スフェーンと似たような色合いのゴールドを選んだのよ」
「一体感があって、すてきなジュエリーに仕上がっています」
ムーンは移動しながら、異なる方向からブローチを眺めている。ある方向で足を止めたので、きっとムーンにとって気に入った角度だと思う。
「ほめてくれてありがとう。今回はブローチだから少し工夫をしたのよ」
「ほかのジュエリーとどのように異なるのですか」
「ブローチは服などにピンで留めるよね。まっすぐピンを刺すのは難しくて、少し曲がってブローチが取り付かれる場合がある。でも今回のデザインは、どの方向に留めてもツルが舞うように見えるのよ」
ピンの位置にもこだわった。ピンは表から見えないけれど、配置によって安定感や取り付けやすさが異なる。ツルが舞う姿は比較的面積があるので、強度面も考えながら決定した。
「どの方向からでもツルが飛んでいるようでした。見る人によって好きな方向があると思いますので、自由な方向でつけられるのは嬉しいはずです」
ムーンがいろいろな方向から眺めていたから、見え方の違いは把握しているので説得力があった。たしか北関東にある県では、県の形がツルの舞う姿と聞いたことがあるから、その向きに取り付けることも可能ね。
「宝石調和スキルのおかげもあると思っている」
「このブローチは誰かにプレゼントするのですか」
「奉納するつもりよ。でも奉納前にコパリュスとスターには、完成したブローチをみてもらいたい。宝石神殿の庭にいると思うから行きましょう」
ムーンをつれて宝石神殿をあとにした。コパリュスとスターは南東にある牧草地にいた。スターは青空の中を気持ちよさそうに飛んでいる。
「メイアは気分転換に牧草地へきたの?」
私たちに気がついたコパリュスが聞いてくる。
「ブローチを作ったから、コパリュスとスターに見せたくてきたのよ」
「コパはすぐに確認したいの」
上目づかいに訴えてくるコパリュスを待たせる訳には行かないので、宝石箱からブローチを取り出してコパリュスに渡した。
「スフェーンのかがやきを生かしたブローチよ」
「黄金の鳥が飛んでいるようで、すてきなブローチなの。見る向きで鳥の表情が変わるのも面白いかな」
太陽光に当てながらコパリュスはブローチを楽しんでいる。
「ぼくとおなじ、うれしそうに、とんでいる」
私の近くにスターが降りてきて、コパリュスが持っているブローチを眺めた。
「スターと一緒に飛ぶ姿は楽しそうね」
「ぼく、とぶのが、だいすき」
スターがうれしそうに私の周りを飛び回った。みんなでブローチを眺めながら、さわやかな時間を過ごした。
「このブローチはどうするの?」
私にブローチを渡しながらコパリュスが聞いてくる。
「奉納するつもりよ。ブローチのツルが舞うように、宝石神殿が未来へむかって羽ばたいてもらいたい」
「コパはうれしいの」
コパリュスが私の腕を取ってきたので、みんなで宝石神殿の5階へと向かった。
(了)
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