第48話 伯爵からの贈りもの

 ステンドグラスは乾燥中なので、それまでは普段通りに宝石神殿の地下2階で鉱物の採掘をしていた。


 近くにいたコパリュスが知っている人が宝石神殿に来たと教えてくれた。コパリュスと一緒に宝石神殿の外に出ると、噴水近くにみなれた姿がある。ガルナモイトさんたちも宿屋から来ていた。


「シストメアちゃん、遊びに来てくれたのね」

「メイア、お久しぶりです。今日は献上品の報告と、お爺さまとお婆さまに会いに来ました。しばらく泊まっても平気ですか」


「もちろんよ。好きなだけ楽しんでいってね」

 シストメアちゃんと話していると、鞄を持ったガットーネさんが近づいてきた。

「お嬢様、準備が整いました。メイアさん、今回もお世話になります」


「いつもの部屋が空いているから、ゆっくり過ごしてね」

 シストメアちゃんとガットーネさんが宝石神殿の中へ入っていく。噴水の周辺では護衛のダイジェイトさんたちが残りの準備をしていた。


「このあとメイアはどうするの?」

 コパリュスが聞いてくる。

「シストメアちゃんの準備が落ち着く夕方前に、シストメアちゃんに会うつもり。それまではもう少し採掘を続ける予定よ」


「コパも一緒にいるの」

「ダイジェイトさんに挨拶してから行こうね」

 知っているダイジェイトさんに顔を見せて、ガルナモイトさんたちに残りをお願いして宝石神殿の中へ戻った。


 夕日がきれいな時間帯にシストメアちゃんがいる部屋を訪れた。向かい側にはシストメアちゃんがいて、近くにはガットーネさんが控えている。私の横にはコパリュスが座っていて、それぞれが簡単に近況を伝え終えた。


「お父様から献上品が大好評だったと、メイアに伝えてほしいと言われました」

「それはよかった。ジュエリーには自信があったけれど、好みの問題もあるから結果を聞くまでは不安だったのよ」

 ジュエリーの品質は人による違いは少ないけれど、好みは人によって異なる。国王様が気に入ってくれてよかった。


「コパはメイアのジュエリーが喜ばれると知っていたの」

 横にいるコパリュスも嬉しそうだった。頭をなでて上げると、かわいらしい笑みを見せてくれた。


「ふだんの2倍以上もの時間を使って質問されたそうです。制作者に会えないかとも聞かれたようです」

「国王様に会うのは恥ずかしい」

 率直な感想を述べた。国の代表と会うのは元の世界でもなくて、王族に対する礼儀作法も知らない。私には宝石神殿での日常が楽しかった。


「メイアは表に出るのが苦手にみえたので、遠くにいるので会うのはむずかしいと答えたそうです」

「気を使ってくれてありがとう」


「それほどまでにメイアの献上品はすばらしかったと思います。忘れないうちに渡す品物がありました。お父様から預かってきたメダルです」

 シストメアちゃんが話し終わると、ガットーネさんが手に乗るくらいの箱を持ってきた。シストメアちゃんが箱を私に渡す。


「開けても平気?」

「ぜひ中を確認してください。気に入ってくれるとうれしいです」

 動物の革と思わせる高級感のある箱を開けると、中には金貨が入っていた。


 手に取ると、ふだん使用している金貨と異なった。ひとまわり大きな金貨で、時代劇で見られるような模様や文字が両面に彫られている。ジュエリー作りをしている私には、その凄さが肌を感じて分かった。


「きれいな模様ね。大胆でありながら繊細な作りをしている特別な金貨に思える」

「ラコール伯爵家専用の金貨です。表側に伯爵家の家紋が入っていますので、スークパル王国で困ったことがあれば助けになります」

 スークパル王国は貴族社会と思われるから、貴族の家紋は絶大の力があるはず。献上品のお礼にくれたと思うけれど戸惑いもあった。


「すでにお金で報酬は受け取っているけれど、家紋入りの金貨も平気なの?」

「メイアなら悪さに使わないと分かっていますので大丈夫です」

「信頼してくれてありがとう。大切に保管するね」

 家紋入りの特別な金貨を宝石箱へ入れた。


「お父様もメイアと繋がりが持てて喜んでいます。それほどにメイアのジュエリーはすばらしいです」

「ジュエリーを気に入ってくれてよかった」


「コパもメイアのジュエリーを気に入っているの。でもいまは気に入ったメイアの料理が食べたいかな」

 いつの間にか、シストメアちゃんと話が弾んだみたい。


「そろそろ夕食を作る時間ね。今日はシストメアちゃんを歓迎したいから、宝石神殿の2階でみんなを集めて夕食を楽しみたいけれど平気?」

 シストメアちゃんへ視線を向ける。


「メイアの料理が食べられるのですか。こちらからお願いしたいくらいでした」

 うれしそうに笑顔を見せてくれた。

「準備をするから、それまでゆっくり休んでいてね」


「コパも手伝うの」

「一緒に料理を作ろうね。人数が多いからルーパさんとリテさんにも聞いてみる」

 シストメアちゃんがいた部屋をあとにして、シンリト様に会いへいく。歓迎会を話すと喜んでくれて、ルーパさんとリテさんの手伝いも了解を得られた。


 シストメアちゃんが食べていないミソとショウユの料理を中心に作った。

 歓迎会にはトナタイザンさんも呼んで、シストメアちゃんと賢者ヤシャシートンさんとの顔合わせもおこなった。賑やかな中で楽しい時間を過ごした。


 シストメアちゃんがきてから数日後、ステンドグラスの状態を見ると、つなぎ目がしっかりくっついていた。すべてのステンドグラスが問題なく出来上がっていて、宝石神殿へ飾る準備が整った。


 最後にコパリュスへお願いして、魔法で補強してもらった。これでよほどのことがない限り、壊れないと思う。

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