第47話 ステンドグラス作成
領都アーバンから戻ってきて数日後、ムーンからうれしい知らせを聞かされた。以前からお願いしていた、うるしと思われる樹液が見つかったみたい。
「ムーン、見つけてくれてありがとう。私も一緒に行って確かめたい」
うれしくてムーンのフサフサとモフモフの体をなでる。ムーンも喜んでくれて尻尾を振ってくれた。
「わたくしが案内します」
「コパも一緒に行くの。うるしがどのようなものか、見てみたいかな」
「ぼくも、いきたい」
「みんなで一緒に行こうね」
昼食後になってから、うるしを確保する道具を用意してムジェの森へ向かう。先頭はムーンで、私がスターを抱えて横にはコパリュスがいる。スターの暖かさが私に伝わって、頭をなでるとうれしそうに腕の中ですり寄ってくる。
魔物が出現すると、ムーンが私の見えない位置で倒してくれて残った素材や魔石を持ってくる。危険がいっぱいのムジェの森だけれど、私の周辺だけはおだやかな時間が流れていた。
「もうすこしで到着します。似たような木が複数ありました」
目的の場所に到着すると、ムーンが対象の木を教えてくれた。魔物か動物がつけたと思われる傷があって、その場所から茶色の樹液がにじみでていた。
木の棒で触ってみると、水飴のような固さで粘りもあった。
「さわった感じでは接着が出来そうなだから、この樹液を少しずつ集めて試してみたい。みんな手伝ってくれる?」
「もちろんなの。コパはやり方を知りたいかな」
「わたくしもお手伝いします」
「ぼくは、むずかしい」
スターは悲しそうな表情を見せたので、頭を撫でながら語りかける。
「スターは魔物が近くにいないか調べてほしい。これも立派はお手伝いよ」
「ぼく、がんばる」
スターが私の腕にすりよってから地面に降りて、翼を広げて飛び立った。スターは上空で旋回しながら周囲を警戒してくれた。
「ムーンは爪で木の表面を少しだけ傷つけてほしい。深さは樹液が出ている傷を参考にしてね。ひとつの木には数本の傷だけで太めの木にお願い」
「分かりました。木を選びながら傷をつけます」
ムーンが動き出すと、コパリュスが私の腕を取った。
「コパは何をするの?」
「ムーンが傷をつけた場所の下に、箱を設置してほしい。私も一緒に箱を設置するから、位置などは参考にしてね」
「コパはメイアと一緒にがんばるの」
ムーンが傷つけた木に、私とコパリュスで箱を設定する。樹液は少しずつしか出ないので、何日かに分けて同じ作業を繰り返した。
ある程度の量が確保できると、不純物を取り除いて水分を飛ばした。元の世界にいたとき、テレビのジュエリー番組のあとに放送されていた、うるし塗り番組の内容を思い出していた。詳しくは覚えていないけれど、大きな間違いはないと思う。
今日は宝石神殿の地下1階でステンドグラス作成を始めていた。となりにはムーンが興味のある目で私の作業を見ている。
「準備が出来たから、ステンドグラスを作るね」
「どのような絵にするのでしょうか」
「絵というか、今回は模様を作るつもりよ。ひとつのステンドグラスには、似たような色合いのルースで作る」
「何色のステンドグラスを作るのでしょうか」
ムーンが聞いてくる。
「虹の七色を考えている。それぞれの色でステンドグラスを作るつもりで、赤色ならロードクロサイトとスピネルとルビーを使う感じね」
「色鮮やかで完成が楽しみです」
「時間がかかると思うけれど、楽しみにまっていてね」
宝石箱からルースを取り出して、テーブルの上に並べる。最初に色合いで大雑把に分けてから、微妙な色合いや大きさ、カットで分類していく。
最初に赤色のステンドグラスから作り始めた。下側を濃い赤色で上側へいくに従って薄い赤色へと変える。左右はカットの種類を変えてかがやき具合を変化させた。
ステンドグラスの大きさは両手を並べた2倍くらいの幅で、高さはさらに2倍の縦長を考えている。
接着剤として使ううるしには小麦粉と水を混ぜて、ルース同士の間にうるしを塗りつけていく。細かな作業だけれど、ジュエリー作りも似たような感じなので黙々と作り進めた。このあと乾燥させる必要があるけれど、1枚目ができあがった。
視線をあげるとムーンが近寄ってくる。
「きれいなステンドグラスで、光に当てればもっと輝きそうです」
「実際は立てて設置するから、裏から当たる光が幻想的に映ると思う」
「1枚でもすてきですが、これを何枚も作るのですか」
「ルースがある分は作るつもりよ。この段階のステンドグラスから、10日くらい乾燥させれば完成になると思う。日数はかかるから全部の完成まで気長にまってね」
乾燥には温度と湿度も重要とテレビ番組で言っていた。とくに高い湿度が必要みたいなので、試行錯誤しながら作っていきたい。
「楽しみに待っています」
少しだけ休憩してから次は青色のステンドグラスに取りかかった。アイオライトとトパーズとサファイアを使って、まだら模様的に色合いを変化させた。
何日もかけて、うるしをつけた段階のステンドグラスがすべて完成した。あとは乾燥を待つだけだった。
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