第46話 陰のトナタイザン

 その日の夕方に、領都アーバンの西門近くでアーバンを囲む壁の上にいた。私たち以外にシストメアちゃんも一緒にいる。


 ガルナモイトさんとマクアアンリさんは冒険者ギルドへ行って、冒険者たちと協力している。神獣ドラゴンが出現したときに、うまく冒険者を誘導できる可能性もあるので心強かった。


 私の目ではよく分からないけれど、南西方向にみえる森でスタンピードが発生しているみたい。明日になれば、目視でも確認できるほどに近づくと聞いた。

「魔物がきても、メイア様はわたくしが守ります」


「頼りにしているね。今日は下見に来たのみだけれど雰囲気はわかった?」

 トクツァイン様にムーンの力を貸せると話すと喜んでくれた。ただ混戦状態では魔物に間違われる可能性があるので、アーバン内へ侵入した魔物のみを対応する。

「地形などを把握しましたので大丈夫です」

 ムーンが壁の内側を見ながら答えてくれた。


 視線を西門の外にむけると道が延びていて、警備隊か冒険者と思われる人物が森へ向かう道を進んでいる。斥候部隊なのか遊撃部隊なのかは分からないけれど、危険な任務には違いない。壁の外側には魔物を迎え撃つための準備も進んでいる。


「ムーちゃんに任せれば平気なの。コパもいるからメイアは安心して」

「ぼくも、がんばる」

 コパリュスとスターも私を気遣ってくれた。


「危険な場所へは行かないようにするね」

「メイアは私と一緒に部屋で待っていれば大丈夫です」

 トクツァイン様から危険が伴うとのことで、私とシストメアちゃんはスタンピードが収まるまで伯爵邸で過ごす。アーバンから離れる話もあったけれど、シストメアちゃんは領民と一緒にいたいと懇願した。


「みんなありがとう。下見が終わったから戻るね」

 壁から降りようとしたときだった。


「トナタイザンなの」

 コパリュスが南西方向を指さした。

「トナタイザンさんが来たの?」

 聞き返しながら南西方向に視線を向けたけれど、私には何も見えない。


「まだ遠いから目視ではむずかしいかな」

 広範囲の気配を感じ取れるコパリュスだから分かるみたい。しばらく見ていたけれど、まだ変化は見たれなかった。


「わたくしにも気配を感じ取れました」

 ムーンも気づいた。さらに少し経過すると米粒くらいの大きさが空に出現する。おぼろげながら鳥に似た姿を確認できるまで大きくなった。


「小さく見える影がトナタイザンさんであっている?」

「その通りなの。もう魔物の殲滅を始めているかな」

 コパリュスが答え始めるころには、周囲もトナタイザンさんの影を確認できて、何の影なのかと慌てふためいていた。すぐに西門から馬に乗った人物が駆け出す。


「アーバンは安心と考えて平気?」

 魔物退治の状況が分からないので、コパリュスに聞いた。

「夜になる前にはスタンピードもほぼ収束すると思うの。トナタイザンから逃げた魔物は、警備隊と冒険者がいれば充分倒せると思うの」


「宝石神殿へ戻ったら、トナタイザンさんが喜ぶお礼がしたい」

 目を凝らすと、土が舞っているのか燃えたあとなのか煙がみえる。ただ夕暮れが近いので詳しい状況まではわからない。


 そのまま日が落ちるまで西門近くの壁の上にいた。

「魔物の殲滅が終わったみたいなの。トナタイザンはムジェの森へ向かったかな」

 コパリュスが戦いは終わったと教えてくれた。私たちは伯爵邸へ戻って、トクツァイン様の邪魔とならないように部屋で休んだ。その日はガルナモイトさんとマクアアンリさんは伯爵邸へ戻ってこなかった。


 翌日の朝食が終わって部屋へ戻る途中に、むずかしい顔をしているトクツァイン様を見つけた。

「魔物はどうなりましたか」

 トナタイザンさんが倒したことは知っているけれど、どのような状況下は分からないのでトクツァイン様に聞いた。


「スタンピードは消滅した。逃げ延びた魔物はいるがもう大丈夫だ」

「魔物を殲滅できてよかったです」


「これ以上ない、よい結果だったが不思議な現象が起きた。メイアたちが信じるかは分からないが、クンラウ山脈に住む神獣ドラゴンが現れたのだ。気まぐれだと思うが魔物たちを殲滅して、空の彼方に飛び立ったと聞いている」


「不思議なことが起きるのですね。でもアーバンが無事でよかったです」

「アーバンだけではなくて、警備隊と冒険者もほぼ無傷だった。奇跡だとしか言い様がない。このあと現場を見てくるつもりだ」

 トクツァイン様はそれだけ話して、廊下の奥へと消えていった。


「トナタイザンさんには感謝しかないよね」

 小声でコパリュスたちに話ながら部屋へ戻った。


 スタンピードの影響がなくなったと判断された3日後、領都アーバンを出発して宝石神殿へ向かった。道中、何の問題もなく無事に宝石神殿へ着いた。

 トナタイザンさんには感謝の気持ちを込めて料理を振る舞った。たくさんの料理にトナタイザンさんは美味しいと言って喜んでくれた。

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