第44話 ラコール領へ
ラコール領の領都アーバンに向かって、宝石神殿をあとにした。コパリュスとムーンとスター、御者としてガルナモイトさんとマクアアンリさんが一緒だった。
ガルナモイトさんとマクアアンリさんは旅に慣れているようで、的確な行動を取ってくれたので大きな問題もなく領都アーバンへ到着した。
ラコール伯爵邸で私とコパリュスのみが使用人に案内されて、トクツァイン様へ会う。ほかのメンバーは別室で待つことになった。
「よく来てくれた。元気で過ごしていたか」
向かいに座っているトクツァイン様が聞いてきた。私の横にはコパリュスが座っている。
「宝石神殿は心地よい場所なのでいつも元気です。シンリト様とリンマルト様も楽しく過ごしています」
「それはなによりだ。私を訪ねてきたのは献上品ができたのか」
「その通りです。今からお出しします」
献上品のジュエリーは大きいので、革の鞄に入っている宝石箱にしまってある。収納アイテムはめずらしいけれど、貴族や一部の冒険者と商人ももっていた。トクツァイン様の前なら問題ないと思って、革の鞄から布をかぶせた状態で取り出す。
「収納アイテム持ちか。メイアが持っていて不思議ではないが、まだまだ数は少ない貴重な品物だから、使う場所は考えたほうがよい」
「気をつけながら使います。こちらが献上品のジュエリーです」
テーブルの上に置いたジュエリーから、そっと布を取り外した。
トクツァイン様が目を見開き、ジュエリーを凝視する。驚いているみたいで、その場で動きが固まっていた。しばらくして我に返ったのか私へ顔を向ける。
「私が知っているジュエリーと大幅に異なるが、国宝級といえるほどの出来だ。このジュエリーはどのように利用するのだ?」
「ほめてくれてありがとう。庭に咲く花々を閉じ込めた観賞用ジュエリーです。部屋において、眺めながら心を癒やしてもらえるとうれしい。見る角度や光の加減に、背景色を変えれば幻想的な花々が見られると思う」
「それは楽しみだ。ぜひ試させてくれ」
トクツァイン様がジュエリーを回転させながら眺めだす。途中からは席を立って距離も変化させていた。部屋の明るさも変えて、何度も感心したように頷きながらジュエリーを鑑賞する。
ジュエリーを見終わると、元の席に座って私へ顔を向ける。
「どうでしたか?」
「私自身も部屋に飾りたいほど魅力的だ。宝石自身のかがやきが眩しいほどで、作りもていねいで知らない留め方や技法がある。個々の部分だけではなくて、全体の調和も見事だとしかいいようがない」
「ジュエリーをほめてくれてうれしい」
心を込めて作った甲斐があった。
「献上品として選ぶかどうかはほかの候補をすべて見ないと答えられないが、少なくとも国王陛下に喜んでもらえる献上品だ。数日後までには献上品の結果を話すが、それまで預かっていても平気か」
トクツァイン様が聞いてくる。
「問題ありません。大きいジュエリーですので取り扱いは注意してください」
「わかった。部屋を用意したから、連絡があるまでは屋敷で休んでほしい。シストメアも会いたがっている」
「助かります。私たち以外にも元冒険者がふたりいますが平気ですか」
すでに部屋は用意されているみたいなので、断るのは悪いと思った。それに屋敷へ泊まればシストメアちゃんともゆっくり話せる。
「それは問題ない」
トクツァイン様が使用人を呼んで、私とコパリュスは部屋に案内される。部屋にはムーンとスターがいて、となりの部屋にはガルナモイトさんとマクアアンリさんが泊まることになった。
夕食後にコパリュスとムーン、スターと一緒に部屋で休んでいるとシストメアちゃんが訪ねてきた。いまは向かいって座っている。
「メイアのジュエリーを見させてもらいましたが、すばらしいという言葉しか思い浮かびません。私が献上品を選べるのなら、迷わずにメイアのジュエリーです」
うれしそうにシストメアちゃんが話してくれた。
「喜んでくれてありがとう。シストメアちゃんは元気だった?」
「なかなか宝石神殿へ行く時間はありませんが、元気に過ごしています。メイアも元気そうで何よりです。宝石神殿も変わりはありませんか」
「住人がひとり増えたよ。シストメアちゃんが宝石神殿へ来たときにでも紹介するけれど、レッキュート連合国に住んでいた賢者ヤシャシートンさんよ」
「賢者といえば稀少な職業で、どこの国でも人材を確保したい有能な職業のひとつです。その賢者が宝石神殿に住むとは、どのような理由からなのでしょうか」
シストメアちゃんが興味本位なのか聞いてくる。
「ヤシャシートンさんは宝石のレアコレクターで、めずらしい宝石のある宝石神殿に興味ができたみたいね」
「そうですか。宝石神殿にはいろいろな人が集まってきて賑やかになりますね。私もまた宝石神殿へ行きたいです」
「いつでも待っているね」
その日は夜遅くまで、シストメアちゃんとの楽しい時間を過ごした。
数日後、トクツァイン様から呼び出しを受けたので、私とコパリュスで部屋に向かう。部屋の中ではトクツァイン様とフェースン様が出迎えてくれた。
「献上品はメイアのジュエリーに決定した。このジュエリーなら間違いない」
「すばらしいジュエリーでした。誰に見せても喜ばれる仕上がりです」
うれしい言葉だった。
「メイアはすごいの。献上品に選ばれてコパもうれしいの」
「みんなありがとう。これからも喜んでもらえるジュエリーを作るね」
「シストメアも喜ぶはずだ。せっかくだからメイアから話してくれ」
「分かりました。シストメアちゃんには私から結果を報告します」
部屋を出たあとに、シストメアちゃんがいる部屋を訪れた。献上品の結果を報告すると私以上に喜んでくれた。
泊まっている部屋に戻ってムーンとスター、となりの部屋にいたガルナモイトさんとマクアアンリさんにも報告する。みんなが一緒に喜んでくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます