第42話 献上品の完成

 宝石神殿の地下1階で献上品のジュエリー作りを開始する。一般的にジュエリーは装身具なので、宝石と地金で作る生け花は正確にはジュエリーとはいえない。でもコパリュスたちには普通に通じたので、このまま観賞用ジュエリーとした。

 部屋の中にはコパリュスがいて、私を見守ってくれた。


「デザイン画はすてきだったの。実際のジュエリーはもっとすてきになるの?」

「そのつもりよ。今回は観賞用で身につけるわけではないから、大胆なデザインや色合いを楽しみにしていてね」

 通常のジュエリーは身につけるから大きさや重さに制約があって、着ける人に似合うデザインを考える。でも今回はジュエリーをみて楽しめる部分に特化できる。


「コパは近くで遊んでいるの。何かあれば声をかけてほしいかな」

 コパリュスが離れたのを確認してから、ジュエリー作りに専念した。


 最初に主役として使うルビーとサファイアを宝石箱から取り出して、テーブルの上に置いた。少しずつ集めていたので全部で500個以上はあるみたい。大きさと色合い、形やカットで宝石を分類していく。


 最高品質の題名とも言えるルビーのピジョンブラッドから、サファイアではコーンフラワーブルーまで数があった。パパラチアサファイアをふくめたファンシーカラーサファイアも、きれいな色合いが揃っていた。


 色合いの分類が難しいけれど、スキルの恩恵か目が慣れてきたのか、おおむね期待通りに分けることができた。数が多かったけれど早めに分類が終わった。テーブルの上に並べたルビーとサファイアを眺めていると、コパリュスが近寄ってきた。


「きれいに色合いが分かれていて、このままでもすてきなの。同じ大きさや色合い同士の宝石で花を作るの?」

「花の濃淡を表現したいから、ひとつの花には少しずつ色合いを変えた宝石を使う予定よ。形やカットも花の中心と外側で変更するのも面白そうね」


「葉っぱや茎も宝石で作るの?」

「茎は花と葉っぱの重さを支えるから、ミスリルのみで作るつもりよ。茎自身の重さを減らすために、中空で作れるか試してみたい」

 コパリュスとの会話で頭の中にある想像が具現化していく。


「完成が楽しみなの。ほかにはどのような工夫があるのかな」

「どの方向から見ても楽しめるように立体感のあるジュエリーにするつもりよ。入れ物や葉っぱは彫金で本物らしさや優雅さを表現したい」


「花は本物と同じ大きさなの? それとも身につけるジュエリーくらいなの?」

「全体の高さも私の背丈に対して半分くらいを考えている。両手で抱えるくらいの大きさになるけれど、庭の花々を思い出させるために実際の大きさも意識したい」

 部屋の中で楽しめる花々にしたかったので、鑑賞しやすい大きさにした。


 その日は宝石の分類でほとんどの時間を費やした。翌日はそれぞれの花を想定した宝石をみつくろう。その後は地金で宝石にあう枠を作って、花部分が完成すると葉っぱや茎の作成に入る。大きさがある入れ物も早めに作成を開始した。


 今までのジュエリー作りに比べると数日かかる大作となった。元の世界では1年以上かかると思うので、スキルの偉大さをあらためて感じた。


 数日後、完成したジュエリーをもってコパリュスと一緒に、宝石神殿の3階にいるシンリト様とリンマルト様の部屋へ訪れた。今回は宝石箱の中へジュエリーを入れずに、手に持って布をかぶせた状態で持ってきた。


 中身が見えない形にしてジュエリーをテーベルの上におく。

「こちらが献上品のジュエリーよ。感想を聞かせてほしい」

「デザインでは分かりにくかったが、実際にみると大きさを感じる。さっそくジュエリーを拝見させてもらう」


 ジュエリーに被さっている布をとった。実物を目の前にして、シンリト様とリンマルト様が驚きの表情をうかべる。

「優雅さとやさしさを兼ね備えているかしら。本物の花を思わせるような存在感がありますわ」

「ジュエリーの枠を超えたすばらしい仕上がりだ。手にとっても構わないか」


「触っても平気よ。思う存分に堪能してほしい」

 私の言葉を聞いて、シンリト様とリンマルト様がジュエリーに近づく。大きさがあるので、テーブルの上で回転させながらジュエリーを眺めていた。


 ジュエリーの方向を変えるごとに頷きながら、シンリト様とリンマルト様がふたりだけで分かる小さな声で話していた。見終わると、ふたりが視線を私へ向ける。

「問題ない。いや、予想以上にすばらしいジュエリーだ。最終的に献上品として選ばれるかは不明だが、国王陛下も間違いなく気に入るだろう」

「わたくしも満足しましたわ。庭の一部を部屋の中に表現できたかしら」


「ほめてくれてありがとう。このジュエリーが完成できたのも、シンリト様とリンマルト様のおかげだと思っています」

 お礼の意味も込めて頭を下げた。


「最終的にはメイアの腕がよかったのだ。胸を張ってほしい。献上品を決める日程はまだ余裕があるが、早めに持っていったほうがよいだろう。近日中に宝石神殿を出発してもらえると助かる」


「分かりました。コパリュスたちと準備しておきます」

 献上品のジュエリーが決まった。ジュエリーを宝石箱へしまって、コパリュスと一緒に部屋をあとにする。


「メイアのジュエリーなら喜ばれると思っていたの」

 自分事のようにコパリュスが話してくれる。

「無事に献上品が完成してよかった。私がジュエリー作りへ集中できるように、陰で支えてくれたコパリュスたちのおかげよ」


 横を歩いているコパリュスの頭をなでる。コパリュスの表情が柔らかくなって、満足げな笑みを浮かべた。かわいらしいコパリュスの表情が私をいやしてくれる。

「このあとはどうするの?」

「献上品で使わなかった単体の花がたくさんあるから、宝石神殿へ奉納したい。このまま5階へ向かうね」


 コパリュスと一緒に宝石神殿の5階に行って扉を開ける。精霊たちが迎えてくれた部屋の中を歩いて、オパリュス様の像の手前にある奉納台へルビーとサファイアでできた花々をおく。淡い光とともにジュエリーが消える。


 献上品ジュエリーの完成を祝ってくれたのか、部屋全体に祝福を思わせる光が充満した。何度も経験している、宝石神殿のレベルが15になった証だった。

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