第41話 献上品の決定
レッキュート連合国へ行って、献上品の方向性が見えてきた。でも国王様の情報が少なくて、どのようなジュエリーがよいのかわからない。国王様の好みなどを知るため、シンリト様とリンマルト様へ会いに宝石神殿の3階へきた。
向かい側にシンリト様とリンマルト様が座っていて、私が座っている横にはムーンがいる。
「献上品ジュエリーの方向性がみえてきて、さらに作る方向を明確にしたいと思っているのよ。話せる範囲で構わないので、国王様の情報を教えてほしい」
献上品を国王様が身につけるかは分からないけれど、やはり受け取る側の情報があれば、それに似合うジュエリーを作りたいと思っている。
「国王陛下を一言で表すのなら、政治的手腕に優れている」
最初にシンリト様が教えてくれた。
「国内や国外との関係が良好ということですか」
「その通りだ。王族と考えが異なる貴族の派閥もあるが、王国を豊かにする目標は同じだ。国外に関しては、従来からの友好関係を継続している」
スークパル王国は内政に力を入れているような感じだった。軍事力による領土拡大もなさそうで、争いごとに巻き込まれる可能性は低そう。
「誠実な国王様ですね。私が用意する献上品はジュエリーになるけれど、宝石やジュエリーを集める趣味があると聞いていますか」
「国宝級ジュエリーを見かけましたが、収集しているとは聞いていませんわ」
今度はリンマルト様が答えてくれた。趣味で集めていればレアストーンを使う手もあるけれど、王族のたしなみとしてジュエリーを持っている感じだった。
仮に献上品となった場合は眺めるだけのジュエリーではなくて、国王様に安らぎを与えるジュエリーにしたい。
「収集家ではないみたいだから、専門家がほしいような特殊なジュエリーは不要みたいね。国王様の休暇や気分転換は、何をしているのか知っている?」
「王妃陛下と一緒に庭をみて、ひとときを過ごすと聞いたことがありますわ」
「宝石神殿でいえば、ガゼボで休みながら花壇を眺める感じ?」
雰囲気を把握するために、宝石神殿に置き換えて聞いてみた。
「それに近いと思いますわ」
「国王陛下は仕事を忘れて、家族との団らんを楽しむ。きっと他愛もない会話と色あざやかな花が、気分をよくしてくれるのだろう」
シンリト様が推測で教えてくれた。ほんとうの気持ちは国王様でないと分からないけれど、的を射ていると感じた。
「いつも庭に出られるとは限らないから、部屋の中でも同じような気持ちになれば国王様も喜びそう」
「メイア様はジュエリーの作る方向性が見えてきたのですか」
横にいるムーンが話しかけてきたので、視線を横に移して答える。
「部屋の中でも色あざやかな花を楽しめればと思ったのよ。本物の花は枯れてしまうけれど、ジュエリーで作ればいつまでもきれいよ」
頭の中に思い浮かんだのは生け花だった。単純に花瓶へ花を飾るのではなくて、花のすばらしさを芸術的に表現したい。さらにジュエリーならではの、かがやきや色合いも楽しめれば、きっと気分転換になると思う。
「すばらしい発想だと思います」
私の案にムーンは喜んでくれた。
「メイアさんらしい面白い発想だと思いますが、実際の花は複雑ですわ。ジュエリーで表現できるのかしら」
リンマルト様の疑問は納得できた。この世界にあるジュエリーをスークパル王国やレッキュート連合国でみたけれど、どれも平面的で3次元的な複雑さはなかった。
「リンマルト様の懸案もわかります。でも私なら表現できると思います。いつまでも眺めたくなるようなジュエリーの花を咲かせたい」
「メイサさんがそこまで言い切るのなら、ぜひデザイン画を見たいかしら」
「今まで数多くのジュエリーを作ってきたメイアの案だ。いくつかのデザイン画を用意して、私たちを納得させれば問題ない」
シンリト様もリンマルト様も、私が考えている方向性に肯定的だった。あとは納得してもらえるデザインを提案するしかない。
「いくつかのデザインを考えてきます」
「楽しみにしていますわ」
「時間はメイアの都合で構わない」
「明日また来ます。今日は時間を割いてくださってありがとう」
お礼を述べてムーンと一緒に部屋をでた。
宝石神殿の4階へ戻りながら、生け花のジュエリーを頭の中に思い浮かべる。花と茎に葉っぱ、入れ物までを宝石や地金で作る。色合いやかがやき、表面状態を変えるのも面白いかもしれない。部屋につくまでの間にいくつもの案が浮かんだ。
翌日になって、いくつかのデザイン案をもって、シンリト様とリンマルト様の部屋を訪れた。どのデザインも華やかですてきだとほめてくれて、その中で庭に咲き乱れる花々を思わせるひとつのデザインに決定した。
花はルビーとサファイアを主役にして、茎と葉っぱはミスリルを使って表現していく。入れ物の花器はオリハルコンに彫金を施して繊細さと優雅さを兼ね備える。詳細部分と立体感は、作りながら修正していく方向で進める。
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