第40話 新たな住人

 昨日、ヤシャシートンさんを宝石神殿へ連れてきて、北側にある詰所と倉庫に案内した。日常生活は詰所で、魔石具作りは倉庫でできると喜んでいた。


 今日の夜にヤシャシートンさんの歓迎会をおこなう。場所は宝石神殿の2階で、準備は使用人やガルナモイトさんたちにお願いした。私とコパリュス、ルーパさんとリテさんで料理の準備をしている。


「自分たちは何を作ればよいでしょうか」

 宝石神殿の2階にある調理場でルーパさんが聞いてくる。

「メインはお肉料理を作るから、それ以外の料理とデザートをお願いしたい」


「わかりました。主食はパンにしますか、それともお米にしますか」

「今日のお肉料理はお米にあうから、お米で準備をお願いね」

「サラダやスープは、お米にあう料理を中心にそろえます」

 ルーパさんが答えてリテさんに指示を出し始めた。料理の経験が豊富なルーパさんとリテさんに任せれば安心だった。


「コパは何を作るの?」

 横にいるコパリュスが聞いてきた。

「カラアゲをお願いね」

「分かったの。メイアは何を作る予定かな」


「私は具入りトンカツよ。どのような料理かは完成までの楽しみにしてね」

「変わった料理が食べられてうれしいの。コパのカラアゲも負けない味なの」

「コパリュスも料理作りが上手になって、私も助かっている。カラアゲも楽しみにしているね」


 カラアゲをコパリュスに任せて、トンカツ作りを開始した。豚肉はないけれどムジェの森で狩った動物のお肉で代用する。


 お肉は手のひらくらいの大きさで厚みは薄くして、筋に切り込みを入れて食べやすくする。お肉全体に貴重な塩と胡椒をまぶして、1枚のお肉をおいてから、その上に具材を乗せる。今回の具材はチーズに薬草、芋類を用意した。

 具材を並べ終えてからもう1枚のお肉を乗せて、表面に卵を塗って最後に小麦粉をつけた。


 横を見るとコパシュルも問題なく作業を進めていて、カラアゲを揚げているところだった。私も事前に火の魔石具で椿油を温めていた鍋へ、お肉を入れた。豪快な椿油の音が鍋の中に広がった。

 順調に作業が進んで、すべての料理が完了した。


 宝石神殿の2階にある部屋へ料理を並べ終わるころには、宝石神殿にいる全員とトナタイザンさんが集まっていた。交流しやすいように立食パーティー形式にした。


 ヤシャシートンさんの横にきて、ほかの人たちに向かって話し出す。

「新しく宝石神殿に住むことになったヤシャシートンさんよ」

「僕がヤシャシートンである。宝石神殿は興味深い場所で、レアストーンもあるので住ませてもらえることになったである。趣味で魔石具を作っているので、材料を持ってくれば無償で作ってあげるである」


 ヤシャシートンさんの挨拶が終わると拍手が起こった。事前にシンリト様たちやガルナモイトさんたちに話すと、ヤシャシートンさんが住むことを歓迎してくれた。


「おいしい料理をたくさん作ったから、遠慮せずに食べてね。とくに具入りトンカツは食べ応えのあるお肉料理よ。少量の塩やソースをかけるとおいしいよ」

 みんながグラスを手にとって、シンリト様の言葉で歓迎会が始まった。


 コパリュスは切り分けてある具入りトンカツから食べ始めた。ムーンとスターには好みを聞いてから、私が皿へ料理を取り寄せた。

「ふつうのお肉料理と異なって、具入りトンカツは味が複雑になっておいしいの。ソースとの相性もよいの」

 コパリュスの満足している表情がうれしかった。


「具入りトンカツは具材を変えれば、また異なった味わいが楽しめるわよ」

「楽しみなの」

 コパリュスが次のトンカツに手を出す。ムーンも具入りトンカツから食べ始めていて、スターはサラダを口に入れる。


 視線を周囲に移動させると、みんなおいしそうに料理を食べていた。

 ヤシャシートンさんはトナタイザンさんと挨拶を交わしていたので、私もその場所へ移動した。


「トナタイザンさんは宝石神殿に住んでいないけれど、遊びに来てくれるのよ。農作業の手伝いや、元冒険者へ戦闘訓練の指導をしてくれるから助かっている」

 ヤシャシートンさんにトナタイザンさんを紹介する。


「いつも散歩がてらに宝石神殿へ来ている。メイアのジュエリーと料理はすばらしくて、今日の料理も存分に味わえた。賢者もメイアの料理を気に入るはずだ」


「僕も知らない料理が出てきて驚いているのである。意表を突くのではなくて、味が伴っているのがすごいのである。トナタイザンは散歩で来ているとのことだが、どこに住んでいるのであるか?」

 ヤシャシートンさんは、疑問に思った内容をすぐに聞く性格と感じた。


「近くにあるクンラウ山脈だ」

「ヒューマン族にみえるが、実は違う種族であるか?」

 ヤシャシートンさんの言葉は間接的だけれど、トナタイザンさんの正体に気づいているかもしれない。


「その通りだ。神獣ドラゴンといえば分かるだろう」

 トナタイザンさんも隠すつもりはないようで素直に答えた。


「神獣ドラゴンといえば怖い印象があるけれど、トナタイザンさんは私たちと友好関係にある神獣よ。だから怖がらなくても平気よ」

 宝石神殿に住む上では、トナタイザンさんの正体を理解してもらいたいので、私のほうで積極的に補足した。


「大丈夫である。逆に僕の知らない知識が得られそうで楽しみでもある」

「それならよかった。トナタイザンさんの正体は宝石神殿の住人や関連者は知っているけれど、それ以外には口外していないのよ。ヤシャシートンさんも無闇に話さないでもらえるとうれしい」


「賢明な判断である。僕も信頼できる人物以外は話さないでおくである」

 ヤシャシートンさんは、トナタイザンさんの正体を聞いても驚いていなかった。やはり賢者だからか知識や見識に明るいのかもしれない。


 その後も会話が続いて、ヤシャシートンさんは、ほかの人とも打ち解けていた。ヤシャシートンさんの歓迎会は夜遅くまで続いた。

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