第39話 詰所の使い道

 無事にレアストーンの取り引きが終わったあとも、ヤシャシートンさんと宝石の話題が続いた。

「ここまで一度にレアストーンをみられたのは初めてである。メイアは独自の取引先が存在しているのであるか」


「私自身が鉱物を採掘して、宝石への加工とジュエリー製作をおこなっているよ」

「すべてをひとりで対応とは珍しいのである。どのような生まれであるか」

 ヤシャシートンさんが興味深けに聞いてくる。


 元の世界では研磨とジュエリー製作を一緒にできる人はいたと思うけれど、鉱物の採掘まで同じ人物なのは聞いたことがなかった。

「宝石神殿の管理人で、それと並行して宝石やジュエリーを作っている」


「たしか宝石神殿はムジェの森にあったはずである。メイアは強い魔物を倒せる冒険者でもあるのか?」

 宝石神殿という言葉に驚いているみたい。何処にあるのかを把握しているのは、賢者が知識や見識にすぐれているからかもしれない。


「私自身には魔物を倒す力はないよ。コパリュスやムーン、それに元冒険者がいるから安心して暮らしている。今日一緒に来ているスズリピララさんは、いまは宝石神殿に住んでいる元冒険者よ」

 コパリュスとムーン、スターにスズリピララさんを紹介する。言葉を話せる幻獣には驚いていた。でもヤシャシートンさんの関心は別のところにあるみたい。


「幻獣も興味深いであるが、メイアはどのように採掘してジュエリーまで作っているのであるか。各国を飛ぶまわる冒険者と違うのなら、メイアは特殊なスキルを持っているに違いないである」

 賢者だからか、するどい観察だと思った。本当のことを話せないけれど、知識が豊富なヤシャシートンさんに興味を抱いた。


「特殊ではないけれど、宝石関連のスキルをもっている影響が大きいよ。それに宝石神殿は精霊に愛されているから、大地の恵みである宝石と相性がよいと思う」

「その通りにゃ。宝石神殿には会話ができる上位精霊がいるにゃ。大地が豊かになるからおいしい食材が育って、料理もおいしいにゃ」

 スズリピララさんが会話に入ってきた。


「宝石神殿は興味深いのである」

 ヤシャシートンさんの関心が、私から宝石神殿へ移ったみたい。

「宝石神殿は楽しい場所にゃ。メイアの料理は独特でいつ食べても満足にゃ」


「上位精霊と上位幻獣がいて、複数のレアストーンを扱っているのであるか。宝石神殿は不思議な空間に違いないから、魔石具作りにも面白い影響がでそうである。僕は宝石神殿へ行ってみたいのである」

 ヤシャシートンさんが見上げながら私をみる。


「宝石神殿へ来るのは構わないけれど、ほのぼのしている以外は何もない場所よ。それに移動には日数がかかるから、お店に影響がでると思う」

 リンマルト様やリンマルト様は体調面で、ガルナモイトさんたちは農業に興味があって宝石神殿にいる。でも興味本位で来るには危険な場所で、移動にも時間がかかるから気軽に来てもらう場所ではなかった。


「それなら問題ないのである。魔石具は趣味で作っていて、お金には困っていないのである。宝石神殿は僕の探究心が訴えかけているから、住みたいくらいである。どうすれば住めるのであるか」


 ヤシャシートンさんは行動力と決断力があるみたいで、私の予想以上に話が展開している。宝石神殿でヤシャシートンさんとレアストーンを語るのは面白いかもしれない。ただ簡単に住ませるのは問題があるように思えた。


 どうしようか考えていると、自然と顔がコパリュスへ向いた。コパリュスは笑顔を見せてくれる。

「メイアの好きで構わないの。メイアが楽しく暮らせれば、コパはうれしいの」


 いろいろな人と宝石を語り合えるのは、私にとって祝福な時間である。ヤシャシートンさんはコルンジさんと古くから取り引きをしていて、悪い人にはみえない。宝石神殿が賑やかになるのはうれしい。


 ヤシャシートンさんとは会ったばかりだけれど、宝石神殿へ住まわせても大丈夫な気がした。かりに悪さをすれば、宝石神殿から追い出せば元に戻る。私の中で答えがきまったので、視線をヤシャシートンさんへ向けた。


「宝石神殿にはまだ空き部屋があるから住むことは可能だけれど、さすがに無償で住ませるわけにはいかない。ヤシャシートンさんは何で宝石神殿へ貢献できる?」

「宝石神殿の役に立てれば、宝石神殿に住めるのであるか。お金は使えきれないほど余っているから、金貨での支払いも可能である」


「裕福ではないけれど、金貨には余裕があるから別の方法がうれしい。スズリピララさんたちには農作業や旅人の相手をしてもらっているけれど、ヤシャシートンさんは力仕事をできる?」


「体を使うのは無理である。お金以外なら、魔石具を作るのではどうであるか。材料は用意してもらう必要があるが、希望の魔石具を無償で作ってあげるである」

 宝石神殿に最初からある魔石具以外は、ほとんどもっていなかった。宝石神殿内だけではなくて、外での作業が楽になる魔石具があるかもしれない。


「手持ちの魔石具は少ないから、魔石具を作ってくれるのならうれしい。魔石具の対価として、宝石神殿で住める家を貸せる」

「その内容で僕も満足である。ところで住む場所は、ほかの人たちから離れている場所は可能であるか? 魔石具作りは集中したいので静かな場所が希望である」


 現状では宝石神殿か宿屋に部屋があるけれど、希望の場所にはあたらない。宝石神殿の敷地を頭の中に思い浮かべると、希望の場所が浮かんできた。

「宝石神殿の敷地中央に私たちは住んでいるけれど、北側にある塀の内側に詰所と倉庫がある。その場所なら、周りは田んぼと果樹園だから比較的静かな場所よ」


「その場所で構わないのである。さっそく宝石神殿へ行く準備を始めるのである。2日後には準備は終わっていると思うが、それで平気であるか」

「まだしばらくスラブーンドットの街にいるから、準備ができたらコルンジ商会へ連絡してほしい」


「分かったのである」

 ヤシャシートンさんは嬉しそうな表情をみせる。レアストーンの取り引きから話が大きく変わったけれど、私自身も満足だった。


 ヤシャシートンさんと別れの挨拶をしてから、お店をあとにした。帰りの道でコパリュスとムーン、スターにヤシャシートンさんが住むことについて聞くと、私が満足しているのなら平気だと答えてくれた。


 私たちの用事とヤシャシートンさんの準備が整ったあとに、スラブーンドットをあとにして宝石神殿へと向かった。行きと異なって帰りはヤシャシートンさんが増えたけれど、魔物などの問題もなくて無事に宝石神殿へ到着した。

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