第38話 うわさの賢者

「このあとは如何しますか」

 ロバックさんが聞いてくる。

 観光もしたいけれど、そのまえに賢者のヤシャシートンさんに会いたかった。相手の都合もあるから早めに都合をあわせたい。


「ヤシャシートンさんに会ってみたい」

「分かりました。案内しますので一緒に来てください。ヤシャシートン様はめったに外出をしませんので、たぶん店にいると思います」


 ロバックさんが歩き出して移動を始めた。賢者は一般的に知識や見識にすぐれているみたいで、ヤシャシートンさんも同様だった。

「ヤシャシートンさんはどんな人なの?」

 ロバックさんに聞いてみた。


「ヤシャシートン様は趣味に没頭する性格で、趣味が合えば話が弾みます。コルンジ商会とは昔から取り引きをさせて頂いている信頼できる人物です」

「レアストーンが好きなら、宝石関連で話が合いそう」


 賢者というと堅苦しいイメージがあるけれど、ヤシャシートンさんは少し雰囲気が異なると思った。

 話ながらも目的地へ向かって移動する。


「このあたりは冒険者が利用する店が多いにゃ。駆け出しから熟練レベルまでが使える装備が売っているにゃ」

 スズリピララさんが歩きながら、お店を教えてくれる。武器や防具のほかに魔法関連のお店もあって、機会があれば覗いてみたい。


 お店が集中している通りから外れて、まばらに家がある場所にかわった。

「ヤシャシートンさんは、どのようなお店を開いているの?」

「魔石具を販売しています。ただし気に入った人物にしか売りませんので、人を選ぶ店となります。ちょうど着きましたので案内します」


 ロバックさんのあとに続いて、お店に入っていく。ムーンとスターも平気みたいなので、みんなで一緒にお店に入る。

 お店の中にはたくさんの品物が並べられていた。ロバックさんがそのまま進むとカウンターがあって、その奥にいる人物は下を向いて何かに集中していた。


「ヤシャシートン様、お久しぶりです。少しだけお時間はありますか」

 カウンターの向かいにいる人物がヤシャシートンさんみたい。ヤシャシートンさんはハーフリング族と聞いていたけれど、言葉通りにヒューマン族の大人に対して半分くらいの背丈しかなかった。


 ヤシャシートンさんが視線をあげてこちらをみる。中年くらいの男性を思わせる顔つきであった。

「ロバックであるか。いまは何も注文していないが、僕に用事でもあるか」


「ヤシャシートン様に会いたい、お客様がいたのでお連れしました」

「いくらコルンジ商会の客人といえども、魔石具を作るかは別である」

 趣味で商売をおこなっているのか、お客には興味がないように感じた。


「スフェーンのジュエリー製作者になります」

 ロバックさんの言葉を聞いて、ヤシャシートンさんが勢いよく立ち上がる。

「それを先に話すのである。もしかしてスフェーンのルースを持ってきているのであるか。ほかにもレアストーンはあるのか」

 カウンターの中から出て、私たちの前まで姿を見せた。


「こちらのメイア様がジュエリーを製作しています」

 ロバックさんが私を紹介してくれた。

「僕はヤシャシートンである。賢者と言われているが、新しい魔石具作りを生きがいにしているのである」


「私がメイアよ。スフェーンのジュエリーを喜んでくれてうれしい。スフェーン以外のレアストーンでは、アウイナイトとベニトアイトとターフェアイトがある」

「どのような宝石であるか」

 ヤシャシートンさんが身を乗り出して聞いてくる。


「慌てなくても宝石やジュエリーをみせるから、広げられる場所はある?」

「カウンターでお願いしたいのである」

「鞄の奥のほうにしまってあるから、取り出すまでちょっとまってね」

 ほかの人には分からないように、宝石箱を革の鞄にいれた状態で開けた。レアストーンの宝石名を念じながら宝石箱から取り出す。


 カウンターまで移動してレアストーンをみせる。

「どれも見たことがない宝石である」

「アウイナイトとターフェアイトは産出量が少なくて、ベニトアイトは大粒が採れないレアストーンよ」

 それぞれの宝石名と特徴もあわせて説明した。


「どれも珍しいのである。手にとっても構わないであるか」

「宝石単体のルースだけではなくて、ジュエリーもあるから好きなだけみてね」

 ヤシャシートンさんは最初にルースから手に取った。ルースを手のひらに置きながらルースの向きを変えて眺める。つぎに指でつまんで光にかざしていた。ときおり頷きながら驚きの表情を浮かべていた。


「どれも色あざやかな宝石で、素晴らしいである。アウイナイトは小さいながらも存在感は大きいである」

「私もアウイナイトの青色は好きよ。ジュエリーはルースとは異なる素晴らしさがあるから、ジュエリーも眺めてね」


「もちろんである」

 ヤシャシートンさんがジュエリーを手に取った。リングは実際に指へつけて、宝石の見え方や着け心地を確かめていた。見え方と着け心地は私自身がためしながら、宝石調和スキルの手助けをかりて最終的に決めている。


 リング以外のジュエリーも身につけながら確認している。ヤシャシートンさんの納得している表情が私を安心させてくれた。


「すばらしい、これらの宝石とジュエリーがほしいである。この宝石とジュエリーが手に入るのなら、すきな魔石具を作ってあげるである」

 ヤシャシートンさんが興奮した言葉で私に話しかける。


「ほめてくれてうれしい。レアストーンのよさが分かる人は少ないから、ぜひ宝石とジュエリーを可愛がってほしい。いますぐ必要な魔石具はないけれど、宝石神殿を豊にするときに魔石具を作ってほしい」


「それで構わないである。今回の分は金貨で支払って、魔石具が必要なときに、新しいレアストーンをもらえれば平気である」

「今回はその方法でお願いするね。ところで私が直接取引しても平気?」

 視線をロバックさんへ移した。


「はい、問題はありません。定期的にコルンジ商会へ宝石とジュエリーを卸して頂ければ、私どもも充分です」

「ありがとう。高級ジュエリーを中心に用意しておくね」

 ヤシャシートンさんとは、今日見せたすべてのレアストーンを取り引きした。ヤシャシートンさんはよほど嬉しかったのか、想定以上の金貨を渡してくれた。

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