第37話 一般のジュエリー
翌日になって、ロバックさんが宿屋まで向かえに来てくれた。
「最初は何処に行きますか」
ロバックさんが聞いてくる。
「まずは宝石店を見て回りたい」
献上品の参考となるジュエリーがないかを最初にみて、観光などは時間ができてからゆっくり回りたいと思った。
「何件かおすすめのお店がありますので、ご案内します。メイア様はジュエリーを製作していると聞きましたが、正体は明かさないほうがよいでしょうか」
質問の理由を聞くと、正体を明かすメリットとデメリットを教えてくれた。
簡単にまとめると、メリットは専門的な話ができること、デメリットは私のカットや加工などの通常では見かけない手法を聞かれることだった。
「どのようなジュエリーが人気で一般的なデザインを知りたいだけだから、正体は明かさない方向でいきたい」
「分かりました。聞かれましたら、コルンジ商会のお客様という形で紹介します」
「それでお願いするね」
私たちはロバックさんのあとにつづいて移動を開始した。
賑やかな通りを過ぎて、静かな中にも高級感のある建物が並ぶ通りへ向かう。
「このあたりは有名な冒険者や貴族が訪れる区画にゃ。うちには高すぎて買いに来るのがむずかしいお店が多いにゃ」
スズリピララさんが歩きながら教えてくれる。
「最初はこの街一番の技術と品揃えがある宝石店となります。貴族も好んで買いに来ますので、できるだけ目立たないようにお願いします」
「貴族に目をつけられると大変にゃ」
「どうすればよいの?」
シストメアちゃんたち以外の貴族は知らなかった。
「貴族は見た目の服装で分かるから、無礼を働かなければ平気にゃ。ジュエリーを見ているときに貴族が近づいたら、移動すれば平気にゃ」
「ジュエリーへ夢中になると周りが見えなくなるから、そのときは教えてね」
「分かったにゃ」
「このお店です。使い魔は中には入れませんので、私が外でみています」
ロバックさんが立ち止まって、到着したことを教えてくれた。
「メイア様はゆっくりとジュエリーを眺めてください」
「ぼくは、ムーンといっしょにいる」
「ロバックさんに迷惑をかけないようにまっていてね」
ムーンとスターを撫でてやると、うれしそうな表情をしながら頷いてくれた。
私はコパリュスとスズリピララさんをつれて中へ入る。高級宝石店の名前にふさわしく、店内はきれいで清潔感があって造りも高級感があった。ふだんの服装できたので一瞬ためらったけれど、お店の人はふつうに迎え入れてくれた。
近くにあるジュエリーから目を通す。展示ジュエリーの半分程度までゆっくりと眺めた。お店の人は遠くから見ているだけで、こちらから呼ぶまでは来ないみたい。
「メイアの目から見て、ここのジュエリーはどうなの?」
横にいるコパリュスが声を落として聞いてくる。
「品揃えが豊富でていねいな作りをしていると思う。でも」
そこで言葉をとめた。
「何かあるの?」
「食事のときにでも話すね。勉強になったから献上品の方向性もみえてきたよ」
コパリュスに答えていると、スズリピララさんが私の視界に入ってくる。
「貴族が来たにゃ。どうするかにゃ」
私のみに聞こえる音量で話す。
「ある程度みたから、ほかのお店に行きましょう」
高級宝石店を出てロバックさんたちと合流した。そのまま次の宝石店へむかう。何件か宝石店をまわるころには太陽の位置が高くなっていた。
「コパはお腹が空いたの」
コパリュスが私の腕を取ってくる。
「そろそろ食事の時間ね」
「料理の希望はありますでしょうか」
ロバックさんが聞いてきた。
「スズリピララさんのおすすめなお店があれば行ってみたい」
スズリピララさんはおいしい食べ物に目がないから、おいしい料理がでるお店を知っていると思った。
「もちろん知っているにゃ。うちに着いてくるにゃ」
「それではお願いするね」
スズリピララさんを先頭に移動を開始した。
目的のお店は大衆食堂を思わせる雰囲気で、昼間からアルコールを飲んでいる人たちもいた。今回はムーンたちがいるので、お店の外にあるテーブルに座った。
いまは食事が運ばれてきていて、食べながら雑談をしている。
「このお店は料理の種類が多くて量も多いにゃ。でも値段は庶民的にゃ」
お肉料理を食べながらスズリピララさんが教えてくれる。どのような料理があるのか分からなかったので、料理の種類はスズリピララさんにお任せした。
「初めてみる料理もあるから、いろいろと味見ができてうれしい」
私が食べている横で、コパリュスも美味しそうに料理を口へ入れた。ムーンとスターはテーブルの下で行儀よく食べている。
「メイア様、宝石店はどうでしたか」
ロバックさんが聞いてくる。
「コパも知りたいの。メイアは店内で何か話したかったようにみえたかな」
「最初のお店では、お店の人の前では言いにくい感想だったのよ」
「ジュエリーがよくなかったの?」
「最初の宝石店は街一番の技術と品揃えとなります。それでもメイア様には満足いかなかったのでしょうか」
最初のお店は、この世界の技術レベルからいくと上位に入るみたい。でも私からみれば、あまりよい出来とは思えなかった。どこまで話そうかと思ったけれど、コパリュスは私のジュエリーをよくみているので、素直に答えることにした。
「王都ドリペットで最高級ジュエリーを見せてもらったけれど、それと比べると宝石の品質がワンランク落ちている感じね。宝石の種類が異なるのは別にしても、高価格帯はそれに見合う労力を使っていた」
元の世界にあるダイヤモンドでは4Cといわれる評価がある。その中でカットと研磨、対称性が優れているルースはトリプルエクセレントと呼ぶ。ダイヤモンド以外には使わない表現だけれど、カットや研磨の重要性はほかの宝石でも同じだった。
「ジュエリー作りの参考にはなったの?」
コパリュスが聞いてくる。
「きれいな原石を使って、ていねいにカットするのが重要と改めて感じた。私が加工するルースは、それだけでも飛び抜けてすごくなるみたい」
当たり前の内容だけれど、私のスキルや元の世界の知識があるおかげで、この世界のカット技術を大きく上回っているみたい。さらに宝石神殿で採掘できる原石も、高品質が多かった。
「メイアのジュエリーはいつもすてきなの」
「私もメイア様のジュエリーを拝見しましたが、宝石自体のすばらしさのほかにデザインも驚くほどよかったです」
ロバックさんも私のジュエリーをみているようで品質の高さを評価してくれた。
「ふたりともありがとう。いろいろなジュエリーを見られてよかった」
デザインはまだ決めていないけれど、今回みた範囲では平面的なデザインが多かった。3次元的な表現のデザインにするのも面白いと思った。
食事も終わってジュエリーの話題も一区切りがつくと、お店をあとにした。
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