第35話 旅の準備

 数日後にレッキュート連合国へ行くことを決めて、それまでに宝石神殿での用事を済ませている。


 最初はシンリト様とリンマルト様にレッキュート連合国へ行くことを話すと、ゆっくり楽しんできてほしいと言われた。また今後馬車が使えるように馬を購入したいと話すと、御者に使用人を使ってほしいと、うれしい提案をされた。


 今はガルナモイトさんたちに、レッキュート連合国の情報を聞いていた。コパリュスと一緒に、宿屋の1階でガルナモイトさんたち4人と向き合っている。

「北側に導きの道ができたから、準備が整ったらレッキュート連合国へ行く予定なのよ。初めて行く国だから、どのような場所なのか教えてほしい」


「ひとことでいえば、ヒューマン族の部族が集まった連合国だよ」

 マクアアンリさんが答えてくれた。

「スークパル王国の領地区分が、部族による区分に近いの?」


「その通りさ。王国のように王族がいない分、部族間の小競り合いが多いから、その点は注意をしておくれ」

 ひとけの少ない場所や部族間の境界には、近づかないほうがよさそうね。


「気をつけながら観光をしてくるね」

「もし不安なら、あたいらから誰かを護衛につけるかい。土地勘があってレッキュート連合国にも知り合いがいるから、道に迷うこともないさ」


「コルンジさんのお店も知っている?」

「商隊の護衛をしていたから、もちろん知っているよ」

 マクアアンリさんが答えてくれた。ガルナモイトさんたちの誰かが一緒に来てくれれば、たしかに安心材料にはなる。


「コパリュスは誰かが一緒に来ても平気?」

 横にいるコパリュスに顔を向ける。

「メイアの好きで構わないの」

 コパリュスの返事を聞いて、視線をマクアアンリさんへ戻した。


「迷子になると大変そうだから、誰かが一緒について来てくれるとうれしい。もちろん護衛の報酬は出すわよ」

「うちが行くにゃ。報酬はメイアの料理を食べさせてもらえれば充分にゃ」

 スズリピララさんがすぐに反応した。


「旅の道中は私が料理を作ると思うけれど、報酬はそれで平気なの?」

「宝石神殿で優遇してもらっているから平気にゃ」

 スズリピララさんが答えてくれた。


「その通りさ。農作業や旅人の対応をしているけれど、宝石神殿に住まわせてもらえる恩恵に比べれば安いものだよ。それにスズリピララはメイアちゃんの料理が食べられれば、金貨以上の報酬だよ」


「うちの知らない美味しい料理が食べられるにゃ」

 そういえばスズリピララさんは、食べることが好きだった。

「旅中の料理は期待してね。でもスズリピララさんがいないと、農作業や旅人への対応が大変になりそう」


「トナタイザンに頼めば平気だと思うの。ジュエリーを渡すか食事にさそえば、引き受けてくれるかな」

 横にいるコパリュスが提案してくれた。もともとお願いする予定だったら、ちょうどよいかもしれない。


「コパリュスのほうでトナタイザンさんに連絡は取れる?」

 レッキュート連合国へ行く日程も迫っているから、確実にトナタイザンさんと話がしたかった。


「可能なの。今日の夜にでもメイアに会わせられるかな」

「ありがとう、お願いするね。スズリピララさんは、レッキュート連合国へ行く準備をしておいてね」

「わかったにゃ。レッキュート連合国では任せるにゃ」


 一通りの話がまとまって、コパリュスと一緒に宿屋をあとにした。その日の夜にはトナタイザンさんが宝石神殿に訪れて、留守番をお願いした。トナタイザンさんは快く引き受けてくれたので、お礼に夕食へ誘ってミソとショウユ料理でもてなした。


 明日の日中にレッキュート連合国へ行く。今日は旅に持っていくジュエリーを宝石神殿の地下1階で作っている。横にはムーンがいて、私の作業を見守っていた。

「どのようなジュエリーを持っていくのですか」


「コルンジさんには高級ジュエリーを中心に持っていくつもりよ。それと賢者のヤシャシートンさんに会えるか分からないけれど、レアストーンも用意したい」

 ヤシャシートンさんはハーフリング族の男性でレアコレクターだった。この前採掘できるようになった、アウイナイトなどのレアストーンを持っていく予定だった。


「メイア様の作る宝石やジュエリーなら、きっと喜んでくれると思います」

「宝石単体としてのルースやジュエリーの両方を作って、コルンジさんやヤシャシートンさんが好きな品物を選べるようにしたい」


「たくさん必要に思えますが、すべて用意できたのでしょうか」

 少し心配するような声でムーンが聞いてくる。

「前々から作っていた宝石やジュエリーがあるから、もうすぐで準備は完了よ。残りの時間は宝石神殿への奉納用に作る予定ね」


 ムーンと話ながらも、手元への意識は疎かにしない。いくらスキルで補完されていても、なるべく自分の意思で宝石やジュエリー加工をおこないたかった。

 夕方までに奉納用の宝石とジュエリーを作って宝石箱へしまった。中途半端な原石はステンドグラス用に取っておく。


 加工の後片付けをしてから宝石神殿の5階で、宝石とジュエリーを奉納した。4階へ行くとお腹を空かせたコパリュスがいたのでコパリュスと一緒に夕食を作って、みんなで楽しい食事の時間を過ごした。


 翌日、トナタイザンさんに留守番をお願いして、コパリュスとムーン、それにスターとスズリピララさんをつれて、レッキュート連合国へ向かう。宝石神殿に住んでいるみんなが東門まで送りに来てくれて、私たちはムジェの森へと入っていった。

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