第32話 ステンドグラス検討
宝石神殿の4階でシンリト様の絵をみて思いついた、ステンドグラスの絵と作成方法を考えている。近くにいるムーンは私が広げた宝石の欠片を眺めていた。
「この宝石を使ってステンドグラスを作るのですか」
ムーンが聞いてくる。
「ジュエリーとしては形状が使いにくかったり、小さな宝石がたくさんあるから、ステンドグラスにして有効活用ね。完成したら宝石神殿に飾りたい」
「きっとすてきな感じになると思います」
「今までに採掘した宝石の種類はすべてあるから、色あざやかなステンドグラスを作りたい。問題はどのような絵にするかよね」
幾何学模様で色合いを楽しむ絵も面白そうだし、花や動物の絵で何かを表現するのもすてきかもしれない。
「メイア様の好きにすれば平気だと思います。心がこもっていれば、どのような絵でも宝石神殿に似合います」
「いろいろな絵に挑戦して決めるのがよさそうかも。宝石も同じ種類でひとつの絵にしたり、同じ色でひとつの絵を作るのも面白そう」
頭の中にいくつもの案が浮かぶ。
「実際に宝石を並べてみるのはどうですか」
ムーンの提案は的を射ているように思えた。頭の中で考えるには限度があって、目でみた情報は刺激を生み出してくれる。
「試してみる価値はありそうね。まずは色合いを確認するために、同じ宝石の色違いと同じ色で宝石違いの2種類を作ってみる」
同じ宝石の色合い違いでは、サファイアとスピネルでそれぞれ試してみた。テーブルの上に宝石を置いて、空の虹を思わせるように色を変化させていく。手のひらくらいの広さで、サファイアとスピネルで色違いを作った。
「サファイアとスピネルともに美しい色の変化です。宝石の大きさや透明度が異なっている部分が、自然的な色の変化を表しているようにもみえます」
「ただ並べたのみだけれど、ムーンが言うように色の変化を楽しめるね。宝石表面のカットも変化させれば、輝きの違いも楽しめそう」
これほど多くの宝石をふだんは並べないので、思った以上に色の変化がきれいだった。いろいろと試行錯誤を繰り返せば、オパリュス様も喜んでくれるステンドグラスができそう。
「つぎは同じ色で並べるのですか」
興味のある目で、私を見ながらムーンが聞いてくる。
「そのつもりよ。まずは基本と思われる赤色と青色、緑色で試してみるね」
それぞれの色に対して、3種類ずつの宝石を使って並べていく。同じ赤色といっても桃色から紫色まで範囲を広げて置いてみる。さきほどの同じ宝石同士と同様に手のひらくらいまで並べてみた。
完成した3種類の色をムーンへみせる。
「同じ赤色でも濃淡やかがやきが異なって、幻想的な絵にみえます。どの色もすてきですが、それぞれ何の宝石を使っているのですか」
「赤色はロードクロサイトとスピネルとルビーで、青色はアイオライトとトパーズとサファイアよ。最後に緑色はフローライトとエメラルドとガーネットね」
今回は3種類ずつの宝石だけれど、もっとたくさんの宝石も使える。水墨画のように、ひとつの色だけでもすてきな絵が描けそう。
「さきほどの同じ種類の宝石でも今回の同じ色の宝石でも、どちらでもすてきなステンドグラスができると思います。あとは絵の構図を決めれば完成でしょうか」
ためしで作ったけれど、ムーンに喜んでもらえた。現状ではどちらの方法か別の方法で作るかは決めないけれど、ためすことで得られるものが多かった。絵の構図は今後考えるとして、大きな問題がまだ残っている。
「絵の構図を考えれば見た目は完成だけれど、どのように宝石同士をくっつけるかが問題よ。立てかけて飾ることを考えると、宝石を動かないようにする必要がある」
「何か方法はあるのですか」
ムーンが聞いてきた。
実際のステンドグラスは、何かの金属をガラスの周りにまいてくっつけていると思う。作成方法の種類によっては、ハンダも使われていた記憶があった。
「知っている方法では宝石が小さいからむずかしいのよ」
「宝石同士を溶かして、接着させるようにつなぐのはどうですか」
ムーンの案は現実的には困難だけれど、接着という言葉で思いついた。
「宝石はそのままで、あいだに接着させる材料を使えばいけそうね」
「何か思い当たる材料があるのですか」
「うるしと言われる樹液よ。通常は泥水のようにねっとりとしているけれど、乾燥すると固まるのよ。そのときに物同士をくっつける接着効果があるのよ。うるしでなくても、固まる樹液なら可能だと思う」
うるしはうるし塗りを思い浮かべるけれど、陶磁器などの破片をくっつけるのにも使っていると聞いたことがあった。
「ムジェの森にある木は多くの種類があります。乾燥して固まる樹液もあると思いますので、狩りへ行くときに探してみます」
「お願いするね。うるしみたいな樹液が見つかれば、あとは絵の構図を考えればステンドグラスが作れる」
ステンドグラスが完成して、宝石神殿に飾っている姿を思い浮かべた。
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