第31話 元冒険者の仕事

 さきほどまで、ガルナモイトさんたちと農作業をしていた。トナタイザンさんも手伝いに来てくれて、コパリュスも一緒に野菜を収穫した。ムーンとスターは近くの空き地で遊んでいる。


 いまは5回目の鐘がなったあとで、アップルパイを食べながら休憩していた。

「このアップルパイはいくつでも食べられるほどに美味しいにゃ」

 スズリピララさんが笑顔を見せながら、両手にアップルパイをもって交互に食べている。アップルパイは宝石神殿内で最近人気になっていた。


「慌てずに食べてください。それと僕の分まで手を出さないでください」

 トアイライオさんが、ゆっくりと食べながら話す。

「美味しいから仕方ないにゃ」


「宝石神殿の食材は品質もよくて味も申し分ありません。精霊の加護が大きい影響もありそうです」

 エルフ族のトアイライオさんらしい発言だった。農作業を頑張ってくれているガルナモイトさんたちのおかげもあるけれど、精霊たちの活躍は私もよく知っている。


「そうね、精霊たちのおかげだと私も思っている。とくに農業で欠かせない土を豊かにしてくれるダイヤにはいつも感謝している。ダイヤ、ありがとう」

 言葉に出して感謝を述べると、目の前にダイヤが出現した。最近では呼ばなくても精霊たちが現れてくれる。


「ワシ、ガンバッテイル」

「ダイヤが出現してくれてうれしい。いつもありがとう」

 私がお礼を述べると、ダイヤはお辞儀をしてから近くにある野菜に向かって移動を始めた。土に手をかざして、銀色の粒子を振りまきながら土を豊かにしてくれる。最初の野菜が終わると、つぎの野菜へ移動を始めた。


「上位精霊は神獣と会える確率くらいに、ほとんど会えません。さらにここまで友好的な上位精霊は僕も聞いたことがありません。宝石神殿やメイアが精霊たちに愛されている証拠でしょう」


 おどろきと関心が合わさったような表情でトアイライオさんが話す。それほどまでにダイヤは特別な存在に思っているみたい。


 思えば、宝石神殿には神獣ドラゴンのトナタイザンさんが遊びに来て、上位や中位精霊たちと上位幻獣のムーンやスターがいる。そもそも女神様の分身であるコパリュスがいる時点で特殊な環境だった。


「私は宝石神殿以外を詳しく知らないけれど、やはり珍しいのかな?」

「神獣に精霊、幻獣がいる時点でおかしいにゃ。ムジェの森にあって、神殿の敷地内という特殊な環境でなければ、国家か冒険者ギルドが調査にくるレベルにゃ」


「悪意ある者がくれば、わしが追い払おう。国が動こうが大丈夫だ」

 トナタイザンさんが話しに入ってきた。たしかにワイバーンを一撃で倒せるトナタイザンさんがいれば、神様か同じ神獣以外なら平気だと思う。でもむやみな争いはしたくなかった。


「気をつかってくれてありがとう。でも、できるだけ平和に解決したい」

「メイアがそう思うのなら、わしは言われるまで手は出さない。だがこの前のように盗賊団や悪意を持った者は現れるだろう。少なからず抑止力は必要だ」


「そのために、うちらがいるにゃ。農作業が終わったら、また鍛えてほしいにゃ」

「わしはいつでも平気だ」

「はやめに農作業を終わりにさせるにゃ」


 休憩が終わって、みんなで農作業を開始した。夕方前には農作業が終わって、ガルナモイトさんたちとトナタイザンさんは田んぼの近くにある広場へ移動する。この場所でいつも戦闘訓練や模擬戦をしている。


 ガルナモイトさんたち4人とトナタイザンさんとの模擬戦が始まった。徐々に私もみんなの凄さが見て分かるようになってきた。ガルナモイトさんたちは個々の力があって連携もうまいけれど、トナタイザンさんが1枚うわてだった。

 しばらく模擬戦を見学してから、コパリュスとムーン、スターをつれて宝石神殿の4階へ移動した。


 その日の夜に、コパリュスとふたりで宿屋にある温泉へ向かった。宿屋の前を通ると宿屋の中から笑い声が聞こえてくる。ガルナモイトさんたち以外の声もあった。

「旅人が来ているみたいね」

「8人いるの。夕方過ぎに来たかな」


 コパリュスは事前に気配などで把握していたみたいだけれど、私に危害がなければ毎回連絡はしない。以前に比べて宝石神殿を訪れる旅人が増えたから、ガルナモイトさんたちで対応できれば、あえて口は出さないみたい。


「せっかくだから、どのような旅人なのかちょっと覗いてみるね」

 宿屋の扉を開けて中へ入った。

 ガルナモイトさんたちと旅人が楽しそうに会話をしていた。飲み物と食事を運んでいたマクアアンリさんと視線があった。


「メイアちゃん、この時間にどうしたのかい」

「温泉に入ろうと思ってきたら、賑やかな声が聞こえたので覗いてみたのよ」

「あの温泉はあたいらだけではなくて、旅人にも好評だよ」

「ルビーとサファには感謝よね」


 マクアアンリさんと話していると、体の大きいヒューマン族の男性が、グラスを片手にこちらへ視線を向けた。

「マクアアンリ、そのかわいらしいお嬢ちゃんと少女は誰だい?」

 陽気な声でそうとうアルコールを飲んでいるみたい。


「この宝石神殿の管理人さ。疲れがとれると気に入った温泉の発見だよ」

「ムジェの森は大変だったが、ここは素晴らしい場所だ。せっかくだから、お嬢ちゃんも一緒に飲まないか」

 私に向けてグラスを高く上げた。


「これから温泉だから、またあとでね」

「そうか、いつでも待っているぞ」

 大柄な男性はグラスの中を飲み干してから、体の向きを変えた。


「彼らは信頼できる冒険者さ。安心して平気だよ」

 マクアアンリさんが私に向かって教えてくれた。

「ずいぶん仲がよさそうだけれど、知っている人たちなの?」


「レッキュート連合国で同じ冒険者ギルドにいた仲間さ。熟練以上でムジェの森へ魔石と素材集めに来たみたいだよ。それとあたいらの様子もみにきてくれたのさ」

「マクアアンリさんたちの知り合いなら安心ね。そろそろ温泉にいくね」

「ゆっくり暖まっておくれよ」

 宿屋の扉を閉めて、温泉がある入口へと向かう。


 いまのようにガルナモイトさんたちが旅人の対応もしてくれるので、私は安心して宝石やジュエリーに集中することができた。

 コパリュスと一緒に温泉へ入って、今日1日の疲れをいやした。

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